第6話 いまの現状
さてここでぼくらYR新聞社とその周りの現状を説明しよう。
社長のぼくを含め、先日の一日新聞社の元社員を採用し社員5名となったわがYR新聞社は社員数で見た規模は中規模ながら新聞事業と週刊誌事業それぞれの定期購読者という安定した収入源と、突発的なニュースやスクープで爆発的な売り上げを記録することもあり毎週の純利益はクラスで1番になることもある。
ちなみに今クラスで最も大規模な会社は裕也のユーヤユーギ社である。うちのクラスに社員7名、他のクラスに8名の社員を抱える彼らは学年単位でみても大企業といって過言ではないだろう。
彼らはその休み時間のサッカーやドッヂボール大会の開催と運営という事業の特徴からクラスを跨いでの経営を行い、いつぞやの倒産騒ぎにかこつけて他クラスの同業者を傘下に組み込むことに成功した。
廊下掃除という公共事業で学年中に資金が供給されることは確定していたことや、低学年棟の廊下掃除事業に関して一日新聞社から人材派遣を請け負うことなどの経営に対する追い風はあったもののそこで他社の買収に打って出た裕也の観察眼は感服せざるをえない。
康と誠という2名を追加で雇った我々も週刊誌事業の成功ということで十分割の良い投資を行えたと判断していたがそれでも保守的であったようだ。
蓮の調べによると裕也たちもまた会員制を開始し、今までグラウンドが使えなかった雨の日が続く週はガクンと収益が落ち、人件費や各クラスの新聞社に対する莫大な広告費が嵩み赤字になっていたが会費による収入で毎週黒字をコンスタントに達成するようになっているという。
月曜日の朝になると
「勇太社長っ、今週の広告はこんな感じでたのむよ。」
と安くはないGDを手渡しながら全面広告の掲載をぼくに頼み
「美月社長っ、今週のキャラもいつものキャプテン翼でよろしく。」
と同じく安くないGDを美月さんに握らせ広告デザインを依頼する裕也の姿はいつしか月曜日の風物詩となっていた。
いかにも成金経営者風を匂わせているとはいえ、一日新聞社のようにうちと業種が被っているわけでもないし、彼らによる収益も馬鹿にならない。
彼らとはしばらく表向きは仲良くやっていく方針だが、裕也たちも新事業の開始をもくろんでいるとの情報はつかんでいる。その内容によっては対立することも十分あり得る。
美月さんのVIデザイナーズとは週刊誌の挿絵の発注をしていることに伴いある程度の経営上の秘密・・・たとえば次号の記事内容なども共有する程度には関係がよい。
彼女らの会社はぼくらYRからの仕事と裕也たちからの仕事、そして他クラスからの仕事も来るようになったそうだ。
週刊誌の挿絵が無料の広告になっていたらしい。
まあうちにデメリットはないしwinwinといったらwinwinではあるがお互い絵の上手い生徒の獲得を狙っているところはあるのでそこでもめることはあるかもしれない。
会社の規模も社員4名とうちよりはやや小さく、事業内容もうちと重なる部分もあるため将来的にあり得る選択肢として現状の資金力では難しいが社員全員を札束で殴りつけてうちの傘下に組み込むというのもありえるだろう。
真我くんが社長を務める小学校館社は由緒正しい漫画発行事業を手掛ける会社だ。
3本の連載作はいずれも人気であり、販売促進にもっと力をいれればうちのクラス以外でも爆発的な売り上げをたたき出す見込みもある。
ただ現在は社員も少なく会社全体に余裕はないといった感じがする。
真我くんの経営はある意味では漫画雑誌の編集らしいのかもしれないが、厳しく社員に指示を飛ばして期限までの原稿の提出を求める姿はよく見かける。
他のクラスに目を向けると今把握している中でもっとも脅威となるだろうとされるのが低学年棟の廊下掃除で相まみえることとなった5年1組の村上グループだろう。
話に聞く限りでは5年1組で絶対的王者として君臨する村上グループは多くの会社を傘下に収めることで事業の多角化を図っているという。
5年1組で週刊誌の発売のため提携しているICH新聞社の社長、市丸さんとこの間話す機会があったがその時
「村上のやつ、うちの会社の社員に引き抜き工作を仕掛けてきてるの。絶対できるわけない給料を提示してきて。それでうちから社員を引き抜いて骨抜きにした後うちのシマで商売するつもりなんだわ。」
と怒り心頭といた様子で語っていた。
村上グループは幸いと言っていいのかはわからないが現在は事業の多角化に集中するため他クラスへの進出はそこまで積極的ではない、が今後はわからない。
彼らの経営方針は明らかにされていないものが多く、取材を通してみてもなかなか情報が流れてこない。意図的に秘匿されているのだろうか?
1から6組のすべての会社の中でぼくがもっとも脅威だと考えているのが村上グループであるだけに彼らについての情報は逐一報告するよう指示を出してある。
YRの1組への進出は村上グループによる圧力で難しくなっている。別に1組はいいのだが他クラスの巨大市場を先に奪われることがあってはYRは3組の中に閉じ込められてしまう。
自分たちもはやくほかのクラスに打って出れるような事業をもっと作らなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます