第3話 公共事業受注と新事業(前)
金曜日に発行されたYR新聞には『臨時社員募集中』と銘打ち1週間限定の社員を5名募集すると求人広告を出した。
先生による公共事業と名ばかりの大雑巾掛け大会の開催により学年全体では今後の経営に対する安心感が広がり失業者を雇用する動きが広がりクラス内失業率も低下してきていた。
ぼくらYR新聞社でも新しい正社員である康くんと誠くんを採用し、社内の組織をぼくと蓮くんが所属し新聞の制作を行う『編集部』、康くんと誠くんが所属して取材活動を行う『取材部』、そして臨時社員が所属することになる『臨時事業部』に組織を整理。それに先立ち、
「僕らの会社の証を作りたいよね」
という蓮くんの提案により所属と氏名、肩書き、そして会社のロゴが描かれた社員証をVIデザイナーズに発注することとなった。
ちなみにこの社員証、他の会社でも流行り、VIデザイナーズに思わぬ収入をもたらし彼女らの会社の規模拡大に貢献することとなる。
そして土日があけて月曜日の放課後から始まった低学年棟の雑巾掛け公共事業。
求人への応募はぼくらの想像以上に集まりじゃんけんでの選考が行われるなど予想外の出来事はあったものの5人の臨時社員を確保、臨時事業部を主力としてるとは言え今だに小さい我らがYRは全社員総出で低学年棟へ向かった。
「そういや省吾は雑巾がけのアルバイト雇ったりしなかったの?」
低学年棟への道で隣を歩く一日新聞社の省吾に聞く。
「うちはほら前から裕也のとこのユーヤユーギと仲良いじゃん。」
たしかに最近は新聞にユーヤユーギの広告を載せたりと関係も良いイメージがある。
普段一緒に遊んでるイメージはなかったが、お金の巡りは人間関係を変えるものだな。
「だからアイツらに頼んだんだ。俺はあいつらの様子見に行くだけ。裕也たち体力あるだろ。」
「でも先生から雑巾がけを受注したのは君のとこの会社じゃないのか?いいのかそんなことして。」
「いいのいいの。向こうも喜んでるし俺らも仕事回すだけで金貰えるならいいのさ。」
まあ確かにそれも賢い気がする。こっちも一日新聞社も小規模な会社でまともに掃除をやれば本業を圧迫するのは目に見えている。現にぼくらYRは社員総出でここにきていて新聞の制作は一時停止しているのだ。
裕也たちも良く考えるとあくまで下請けでそんなに割のいい仕事ではないとよく考えれば気づくだろうが、一度に纏まった金を渡されたらそんな感覚も麻痺するだろう。
低学年棟に着くと先に作業していたのは裕也達の会社の社員・・・・いや違う。たしかにクラスメイトではあるけど。え?なんで全然裕也の会社じゃない人がせっせせっせと雑巾がけをしてるの?
「えーっと、ユーヤユーギの皆さんは?」
ぼくと省吾くんがほぼ同時に同じことを聞く。省吾くんもこの事情はよく知らないようだ。
「僕らユーヤユーギの人たちに仕事回してもらったんだ。いい仕事があるって。」
「そうそう。臨時収入にしてはいいよな。」「ボーナスだ。ボーナス。」
その後彼らの口から飛び出た一人当たりの報酬金額に僕と省吾くんは驚きを隠せなかった。もとの受注額からするとあまりに低すぎる。
裕也たちもまた仕事を別の人間に依頼して自分達は本業に集中していたのである。要するにただ放課後サッカーをしていたのだが・・・
それから到着したうちの会社の臨時事業部の5人たちに挨拶する一日新聞社の下請けのユーヤユーギ社の下請けのアルバイトたち。
一緒に掃除頑張ろうね。なんて言ってるけど君たちの給料、うちの臨時社員の半分ぐらいだよ。
まあそんなことは言う必要もない。ただ頭のメモにメモっておこうとは思った。
ただ下の人間に仕事を投げるだけで、ただ間で書類をパスする自分たちが一番儲かるこのシステムで新しい事業を始められるかもしれないと。
そんなこんなで1週間ほど文字通り汗水たらして廊下掃除にいそしみ会社に臨時の収入が入ったこともあり社員全員にボーナスを出した。
最近クラスでは零細ながらもオリジナルのボードゲームを紙で制作し休み時間にプレイさせる会社続々誕生しかつての和樹ゲームズ社の市場をじわりじわりと獲得しつつある。
みんなボーナスを握りしめるとその遊びの輪に加わっていった。
この会社制度が始まってから学校中の盛り上がり方はすごい。毎日みんながいろいろな企画を考えているということもあって毎日が夏祭りのような感じだ。
先生たちにしてもある程度のお金を絡めればいままで生徒があまりやらなかったことを積極的にやるようになりwinwinとの話を聞いた。
「そろそろ新しい事業を始めないとな。」
ぼくは一人でぽつりというと次の国語の時間中新事業のことを考えていた。
この間の裕也たちのあれでもいいが、今のうちの会社の体力とクラスの労働力に対する需要をみてもまず今は成功しないだろう。
それとは別の、まだまともな事業をつくらないといけない。
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