第4話 公共事業受注と新事業(後)



「というわけで新しい事業はこれでどうだろう。」


ぼくは放課後に蓮と康くん、誠くんに授業プリントの裏紙にざっくりと手書きで書いたサンプルをみせた。


「これは・・・週刊誌かい?」


蓮くんがプリントを手に取りながらいう。


「そう。いままでは社員の数がぼくと蓮だけだったから十分な取材ができなかったけど今は取材部の二人もいて十分な取材ができるようになったし新聞の制作にも余裕がでてきた。」


「でも雑誌ってどんなことをかけばいいのさ。」


康くんがぼくに聞いてくる。


「新聞はいままで『事実』しか取り上げてこなかった。だけど週刊誌はもっと『噂話』とかそういうレベルのモノを記事にしようと思うんだ。それこそ学校の七不思議とかでもいいし、匿名で投稿してもらって記事にするのもいい。新聞はただ情報を得るものだけど週刊誌は情報を楽しむものにしようと思う。」


「僕家でお父さんが週刊誌を読んでたのみたことあるけどたしかに新聞よりはふわっとした記事が多かったような気がする。」


誠くんがいう。


「それにここだけの話、」


そういって僕は3人を手招きして顔を寄せるように合図する。あまり周りに聞かれたくないからね。


「匿名での投稿コーナーがあることでもっと過激なこともかけるんじゃないかと思うんだ。なにも”本物の”投稿を待たなくてもいいしね。」




次の日からぼくらは新聞の発行と平行して雑誌の制作も始めた。

雑誌の名前は『週刊文々』

最初は週刊YRにしようと思ったのだが過激な記事も載せるつもりなら『YR』の名前を冠していると思わぬところでブランドが傷つくかもしれないから関係ない名前にすることに決めた。

また新聞は週3回の発行だが雑誌は週1回にして値段も新聞の5倍ほどと割と高めの値段設定にした。作る手間を考えたら妥当なものだろう。


「こんなネタどうかな?」「こういう話もいいと思うんだけど。」


康くんと誠くんはクラス関係なく色々なところからネタを集めてくる。

さすがに創刊号ということもあって生徒個人を対象にした攻撃的なネタは避けたが、去年悪ガキグループが起こしたといわれているが犯人が確定しておらず迷宮入りした『職員室前男子トイレうんこうんこ落書き事件の真相』や学校の近くの南公園での目撃が相次ぐとされる『南公園版ネッシー、ミナッシーを追え』、5年前の卒業生が勝手にグラウンドにタイムカプセルを埋めその中には一万円が入っているという『校庭に眠る埋蔵金の行方』

など実にくだらない、が読みたくなってしまう記事を集めてきた。


正直書いていて『これ、本当はこれの真相ってこういうことなんでしょ』と真面目に返したくなるが、そう書いてしまうと白けてしまうのであくまでも本当のことであるように誇張に誇張を重ね、脚色に脚色を重ねて実に馬鹿らしい記事を作ることに成功した。


創刊号の表紙を飾るのは蓮くん力作のミナッシーの絵。思わず手に取ってしまいそうになる圧巻の絵だ。週刊誌というより都市伝説系の雑誌っぽいがまあいいだろう。


これを職員室で印刷してホッチキスで綴じ完成となる。印刷の対応をしていた若い先生が見せてくれというので見せたらあまりのばかばかしい記事にゲラゲラ笑いながら明日金は払うからといいながら結局全部のページを舐めまわすように読んでいた。


「いやあ、お前らセンスあるぞ。匿名で投稿コーナーもあるのか。こんど投稿していいか?」


「先生、それ言ったら匿名の意味ないですよ。」


「おっ、そうだったな。明日ちょっと色つけて払ってやるから聞かなかったことにしてくれ。」


そう言って先生は時折ヒクヒク思い出し笑いをしながら職員室の中に引っ込んでいった。




そして翌日昼休み。

『週刊文々』ついに創刊である。クラス内の出来事中心にまとめていた新聞と異なり学年中の噂話などをまとめたということで他クラスでの販売も行うことになった。

売り込みに行ったらすぐに他クラスの新聞社や漫画会社の連中が飛んできてうちのテリトリーを荒らすなと文句をつけてきたので各クラスの新聞社を通して販売することになった。


他クラスの新聞社に取られる手数料は丸々1冊分。うちのクラスの倍の値段で売っている。


「ずいぶん高いね。うちのクラスメイトがこっそり他クラスに転売しないかな?」


「それはお互い出版物の転売対策ってことで厳しく見張ることにしたから大丈夫だろう。」


それ以外にも出版物などの回し読みは出版者の利益を削る行為ということで先生サイドからも自分たちの間でも強く戒められる行為となっている。

例の倒産騒ぎの時にお金がない生徒たちによる回し読みが横行したことによるものだ。


週刊文々の評判は上々。定期購読の申し込みも数多くあり来週の業績は軽く今まで最高業績のトリプルスコアは達成するだろう。


「いやあ笑いが止まらないね。康くんと誠くんのおかげだよありがとう。」


「そう言ってもらえてうれしいよ。勇太社長。」「YRの社員になれてよかったー」



翌週の週刊文々はさらに多くの生徒が買い求めYR新聞社の業績はうなぎのぼりだ。

ページ数の増加に伴い、社員全員の手首が限界を迎えそうになったのと、毎週コンスタントに入ってくるお金が増えたため今後は週刊文々の挿絵の半分はVIデザイナーズへ発注することになった。


「こっちとしてもYR様様よ。ボードゲームのイラストのお仕事が減ってたからね。」


とのことで喜んで引き受けてくれた。しかし内容が内容だけに公開前の記事の秘密は守るという契約を結び、特に秘密が必要とされるものについては記事は見せずにイラストの内容だけ指示したり、発行日の朝に依頼したりなど内容のリーク対策が蓮主導のもと行われた。








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