VTuberの友達事情と回転寿司へ

 荷物の整理を終え、俺はようやく一息つけた。外はすっかり太陽が沈み始めていた。窓から望める街並み。美しいネオンが広がり始めていた。


「へえ、さすが最上階……人がゴミのようだ!!」

「ショウく~ん、ご飯にしよーって、窓辺で不敵に笑って何やってるの?」


「……っ!」


 桜花のヤツ、いきなり入って来るし!

 いらぬ恥を掻いてしまった。


「ねえねえ、今のなに~?」

「う、うるさいな。なんでもないよ」



 なんとか誤魔化してリビングへ。

 広すぎて軽くサッカーできる空間がある。いくらなんでも広すぎだ。そして、やっぱり景色。どんどん夜景に変わっている。



「ここ……凄いな」

「50階だからね。見晴らしは最高だよ。さて、ご飯何にしようか。ウーハーイーツ? それとも、どこかへ食べにいく~?」


「配信時間は大丈夫なんだっけ」


「うん。今日は喉の調子も整えたいし、お休みの予定。ツイッターはつぶやくけどね」



 なるほど、声を使う仕事だからなあ。無茶も出来ないわけだ。ガラガラの声をファンに届けるわけにもいかないもんな。


 となると、今日はせっかくだ。



「外食でも行くか?」

「いいね、近所にいろんな飲食店あるし、選びたい放題だよ~。わたしは、ひとりでよく行くし」


「ほぉ。それじゃ、下まで降りながら考えますか」

「うん、直ぐ準備するね」



 * * *



 マンションを出て、回転寿司へ向かう。


「ここから徒歩、十分も掛からないのか」

「みたいだね。わたし、回転寿司は初めて」

「それは意外だな」

「うん、回転寿司はちょっと、ひとりは難易度高そうに思えて」


「ちょっと待ってくれ。遥って、友達いるよな?」


「ショウくん、ひどーい。友達くらいいるよ~。ひとりだけ……」


 意外な事実発覚。

 百万フォロワーを誇る桜花シズカに、リアル友達がひとり……だと!? まあ、俺なんかネットの知り合いが一人いるだけだから、負けているけどな。



「そうか、桜花でもそんなもんなんだな」

「うぅ。その友達もね、遠方だから直ぐは会えないし、だから遊びに行く機会があんまりないんだよね」


「びっくりだよ。桜花ってクラスでも女子と普通に話してるよな」

「それはそうだけど、本当に友達って呼べる子はひとりだけ」



 VTuberという商売柄、学校の同級生とかはあんまり信用できないのかもしれない。下手なことを言えば、シズカだってバレる。そんな情報が拡散すれば、取り返しのつかない事態になる。


 リスク管理の為もあるのかなと、俺は勝手に納得する。



 それから、どんどん歩いて回転寿司へ入店。混雑はしておらず、直ぐにテーブルに着けた。



「さぁて、頼むか」

「えっ、ショウくん。回転寿司ってお寿司がグルグル回転してるから、回転寿司なんだよね? なにもないよ!?」


「今時の回転寿司は流れないんだってさ。ほら、この端末。タッチパネルがあるだろ。これで注文すると――ほら、隣の席のように蒸気機関車がすっとんでくるんだ」



 レールの上を走る機関車。

 超リアルな造形でビビる。

 子供から大人まで大好評。


 あの蒸気機関車がお寿司を運んでくるとか、イカしている。



「カッコイイねえ。へえ、タッチパネルでお寿司を選んで注文するんだね」

「そうだ。まぐろ、サーモン、イクラ、ぶり、ウニっと。そら、桜花も選びな」


「う、うん!」



 初めての経験なのだろう、桜花は顔を輝かせてタッチパネルを操作。まるで純粋な子供のようで、そんな光景にほっこりした。


 桜花は、中トロ、うなぎ、あなご、カリフォルニアロール、カニ味噌みそ、えびなどちょっと値段の高い物を注文していた。中トロとうなぎは、一皿二百円するんだよなあ。それ以外は百円だ。



 しばらくすると、機関車が皿を乗せて走ってきた。それをテーブルに移し替え、端末で【返却】を押して返す。



「五分ほど待つと、もうこんなに出て来る」

「こんなラクチンなんだね。知らなかったなぁ! それに、まぐろとか赤みが色鮮やかで美味しそう」



 小皿に減塩醤油を垂らす。ああ、そうだ――これを忘れてはいけない。レール上部にある湯呑ゆのみを取り出し、お茶をれた。桜花の分も。



「はい、お茶」

「ありがとう、ショウくん。あ、わたしのも来た」

「よし、食べよっか」

「うん、お腹ぺこぺこ。いただきますっ」



 一緒に手を合わせて、寿司を味わう。

 んまぁっ……!



 桜花と一緒に食べる寿司は格別だった。

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