VTuber(幼馴染)のマンションへ

 正体不明の人物に体を揺らされ、俺は夢より目覚めた。真っ先に脳裏に過ぎった文字が『ありえない』、『おかしい』だった。

 いつもはスマホの“アラーム”をセットしているはず。なのに、誰かが俺の名を呼ぶ。


「お兄、お兄ってば!」


「……ん。その声は円香か。――って、円香! なんで俺の部屋にいるんだよ」

「起こしに来たのよ。お姉ちゃんに頼まれてね」

「あぁ、桜花とライン交換できたんだな」

「うん。ていうか、お兄ってばお姉ちゃんのところへ行くの? あたしも行っていい!?」



 行くの? と、聞くってことは推測か。もちろん、問答無用で却下だ。円香がいたら、桜花と二人きりになれないじゃないか。



「いや、桜花とは遊ぶだけだ。でも、しばらく帰ってこないかも」

「やっぱり、泊まるじゃん!」


「ち、違う。あれだ、智希っていうVTuberオタクがいるんだ。俺はそいつの家に泊まる予定なんだ」


「ほんと~? でも、お姉ちゃんと遊ぶんだよね。あたしもついて――」

「ダメだ。大切な話があるんだから」

「えー…、つまんない!」


 ぷくぅっと頬を膨らませる円香。まゆも吊り上がって――まずいな。なんとか機嫌だけは損ねないようにしておかねば、後々が怖い。


「仕方ないな。ただ、今日は大切な話とかあるから勘弁してくれ。遊べるときは円香も連れていくから……カラオケとか」


「マジ? それならいいよ。お兄ってば最高っ! 肩揉んであげる!」


 ご機嫌斜めになりかけていた不満顔が修復され、めちゃくちゃデレていた。セーフ! というか、円香は意外とチョロかった。コイツ、こんなに単純だったかな。妹のチョロさに、少々不安を覚える俺。だが、これで桜花とは二人きり。


 俺は、円香を部屋から追い出して準備を進めた。



 * * *



 着替えなど最低限の生活用品をカバンに詰め込み、家を出た。


 マンションの住所は『ライン』で教えてもらった。マップアプリを頼りに街を歩く。家から徒歩で十五分ってところか。さすがに歩くのはダルイので自転車チャリで向かった。


 軽い足取りでペダルをいでいけば、十分も掛からず到着。


 目の前には予想を超える高層マンションがあった。……デ、デカ! 結構、駅も近いし、コンビニとか有名なカフェが三店ある。スーパーや家電量販店、ペットショップや病院もあるから、立地条件最強だな。


 良い所に住んでいるなぁと、マンションを見上げる。高い。何十階あるんだろう。


 驚きの中、スマホに着信が入った。桜花からだ。



「も、もしもし……」

『ショウくん、着いた?』

「おう。ちょうど今、マンションの前にいる。どうやって入ればいいのか分からない。すまんが、迎えに来てくれると――」


 ちょうどマンションの扉が開き、桜花が現れた。もしかして、俺が来るのずっと待ってくれていたのか……?


 電話を切り、お互いに距離を縮める。



「ショウくん、来てくれたね」

「お、おう。当たり前だろ。桜花、どうして俺が来たって分かった?」

「……見てたの」


「え?」


「上からショウくんの姿が見えたから、それで我慢できなくなっちゃって……下まで降りてきた」



 桜花は、視線を下にして頬を赤くする。もじもじと体をくねらせ、恥ずかしそうだ。……うわ、やっぱり待ってくれていたんだ。そんな待ち遠しかったみたいにされると照れるな。


 それにしても、今日の桜花は一段と可愛い。高校生になってからの私服姿は初めてみる。


 お嬢様風エレガントな黒のワンピース。リボンとかフリフリとか可愛らしい。ベルトがウエストの細さを強調していた。桜花って身が引き締まっているなあ。身長も150cmあるかないかの小柄。なのに巨乳だから、本来ならVTuberをやらなくともモテるだろうな。でも、こんな奇跡みたいな美少女がVTuberで本当に良かった。


 しかも、幼馴染。

 俺だけ占有状態で脳汁ドバドバだった。


 全国のファンが知ったら、血の涙を流して悔しがるだろうな。しかし、注意しないとな。もし、中の人に彼氏がいる疑惑でも流布るふすれば大変だ。


 それはつまり――『大炎上』を意味するのだから。



「桜花、ここで立ち話もまずいだろう。万が一もある」

「うん。身バレはしてないけど、行こっか」



 身バレ。それは中の人の正体がバレること。顔写真とか住所とか特定され、そうなれば大変だ。住所なんて漏洩ろうえいすれば、ファンからリアル凸(突撃)される事態に発展する。危険すぎる。


 しかし、中には顔出ししているVTuberもいるらしいが。まあ、住所はともかく……シズカの中身である桜花なら、みんな大歓迎だろうな。炎上は速攻で鎮火ちんかし、投げ銭が無限大の宇宙のように加速する未来が視えた。それはそれで恐ろしいな。


 それに、桜花を表に出すわけにはいかない。普通の高校生活が送れなくなっちゃうし、それが一番困る。だから、俺が全力でサポートしていかないとな。


 俺は、桜花に連れられてエレベーターへ乗った。ついに、桜花の部屋かぁ……楽しみだ!



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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