VTuberのお風呂配信
円香は、機嫌よく自分の部屋へ帰った。花のような可愛い表情を向けてくれるようになって俺も嬉しかった。
――おっと、もう直ぐシズカの『お風呂配信』の時間だ。
俺は再びベッドへ身を預け、スマホを手に取る。ツイッターを開いてシズカのアカウントをチェック。すでに『スペース』が始まっていた。
アイコンをタップすると接続されて、専用ページへ飛ばされた。もうすでに【1200】人のリスナーが接続していた。たった数分でこの人数か。さすが大人気VTuber。みんな待機していたんだな。
ちょうど入浴中らしく、声が響いていた。
……すっご。
これが、シズカ(桜花)のリアル風呂か。映像なしの“音声のみ”だけど、環境音と合わさって良い感じ。微かに聞こえるシャワーの音、水の
これがスペースかぁ。
ラジオとは違った味わいがある。
シズカの甘い声が眠気を誘うし、癒される。最強のASMRだな。1,000円とかなら爆売れ間違いなしだろうな。だけど、それが0円だ。
『――シャワー浴びますね。ちょっと音がうるさくなるかもです。音量にご注意くださいね』
優しい声に俺は
そして、俺は気づいてしまった。
このスマホを持って自分の家の風呂へ行けば……シズカと一緒に風呂に入っている気分を味わえる!?
俺って天才!
だけど、もう風呂は入ってしまったんだよなぁ。いや、構うもんか。家族からは何事かと思われるかもしれないけど、関係ないっ。俺は、スマホを握りしめたまま再び浴室へ向かった。
よし、これで――あぁ!?
ちょうど円香が現れた。
「あ! お兄、まさか……シズカのお風呂配信?」
「円香、お前もか!!」
そうか、円香もシズカのお風呂配信を聞いていやがったのか。この瞬間、バトルが
「「…………ッ!!」」
風呂の使用権を巡り、円香が猛ダッシュする。させるかってーの、俺が先だ!! 自慢の脚力(逃げ足S級ランク)を使い――加速していく!
うおおおおおぉぉ……!!
しかし、俺と円香が風呂へ入るよりも先に、予想外過ぎる第三者が乱入した。……って、ちょ! 父さん!!
「なんだ、ショウも円香も風呂はもう入っただろう。父さんまだなんだぞ。帰れ帰れ」
距離の近い父さんが浴室に入ってしまった。ピシャリと扉を閉められ、俺と円香は行き場を失って呆然と立ち尽くす。
「「…………」」
なんってこった。寄りにもよって父さんに先を越されるとは……クソォ。シズカと一緒にお風呂に入りたかったなぁ。気分とか違っただろうに。
「円香、各々の部屋で聞こう」
「……うん、そだね。人生って都合よくいかないものだね、お兄」
自分の不運を呪うようにトボトボと自室へ戻る円香。あんなショックを受けるとは、よっぽどシズカが好きなんだな。という俺も涙目だけどな。
* * *
一時間に及ぶお風呂配信は終わった。
配信終了と同時にラインに『どうだった?』とメッセージが飛んできた。俺は即返信。
ショウ:お風呂配信、最高だったぞ。入浴のイメージが膨らんでエロかった。
桜花:ショウくんのえっち♪ でも、大好評だったからまたやろうかな。あれから、リプとか通知が鳴り止まなくて大変。でも、真っ先にショウくんに連絡したよ。
ショウ:俺を最優先にしてくれたんだ?
桜花:うん、ショウくんと話すと安心できるんだ……。わたし、これでも小心者だから。結構、無理している部分もあるんだ。だから、今はショウくんのおかげで平静でいられる。
――そ、それって。えっと……やば。どう反応していいか分からない。でも、嬉しくて、心がジンときて、たまらなくて。全国のファンよりも一番に俺に連絡をくれるとか、俺のおかげとか。
あぁ、シズカのファンで良かった。ずっとずっと追いかけてきて本当に良かったと思えた。俺の方こそ、シズカというVTuberがいなければ、今頃は無気力のまま生きていたと思う。
シズカと出会えたおかげで『投げ銭』して応援してやりたいと感じて、それで切り抜きとか初めて、小遣い稼いで……人生がちょっと変わったんだ。
今の俺があるのはシズカのおかげ。俺の方こそ、
ショウ:桜花、俺に出来ることがあれば何でも行ってくれ。
桜花:ありがとう。ショウくんが一番信頼できるから、守ってくれると嬉しいな。
ショウ:お、おう。それぐらいならお安い御用だ。任せろ!
桜花:カッコイイ。じゃあ、後でお礼に写真送っておくね。
ショウ:写真?
桜花:お楽しみ♪ それじゃあ、もう寝るね、バイバイ。
ショウ:おやすみ! また明日。
直後、写真が送られてきた。
こ、これは……桜花の
しかもお風呂上りだ。
女の子特有のサラサラの長い髪。クリッとした大きな瞳。
秒で保存し、俺はスマホを握りしめて眠りに就いた。明日は、桜花のマンションへ行かねばならないし、もう寝よう――。
***おねがい***
続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。
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