甘々な電話とデレデレ妹

 その後、飯と風呂を済ませた俺は自室のベッドへ潜り込んだ。スマホを眺めて、桜花へ電話をするか悩んでいたのだ。


 時刻は二十一時。


 シズカの“お風呂配信”が二十二時にある。その前に電話を掛けるかどうかで一時間以上も悩んでいた。その間、妹の円香から怒涛どとうのメッセージが入ったがスルー。さっき、円香ともライン交換を済ませたが、ここまでしつこいとは。アイツは暇なのか。


 無視し続けていると、ついに円香は俺の部屋まで乗り込んできた。



「ちょっと! お兄、無視とか酷くない!?」



 涙目で抗議してくる我が妹。 

 構っている余裕などなかった。

 扉を問答無用で閉めようとすると、その瞬間に桜花から電話が掛かってきた……! マジか!


「すまん、円香。また今度な」

「あ! お兄ぃ!!」


 俺は急いで扉を閉め、電話に出た。


『もしもし、ショウくん』

「お、おう。まさか桜花から電話してくれるとはな」

『え? もしかしてショウくん、わたしに電話しようとしてた?』


「あ、あぁ……うん。実は、小一時間悩んでた。でも、俺には勇気が出なかった。すまんな、チキンハートで」


『でもそれって、わたしの事を気にしてくれているってことだよね?」


 ……ッ!

 冷静に考えてみれば、桜花のことしか考えていなかった。それもそうだ、シズカがまさかの桜花だったわけだから、俺はずっと彼女を追いかけていたんだな。


「そ、そうだよ。声が聞きたかったんだ。でも、もうすぐ配信だよな。お風呂配信だっけ?」

『うん。初挑戦のお風呂配信。ツイッターのスペースを使ってみようかなって。リアルで入って声だけ流す感じ。動画は一切使わないから安全安心』



 ツイッターのスペースか。

 あのラジオ感覚で“音声配信”できる機能のヤツか。有名人がよく配信しているっけな。シズカの場合、フォロワーが百万人いるから、結構ファンが集まりそうだ。


 なるほどね。

 桜花の癒しボイスなら需要ありまくり。それに、声とか環境音だけでも妄想が膨らむ。楽しみだなぁ。



「うん、絶対に聴く。シズカのツイッターは、ばっちりフォローしてあるし。投げ銭とかは出来ないんだっけ」

『そうなんだよね。だから、ちょっと気分転換的な配信。明日は祝日だから、ヨーチューブのライブ配信するけどね』


 納得。平日は学業もあるから、そこまでゲーム配信とかできないんだな。出来ても精々、雑談とかコラボ配信だ。いつも視聴しているから、流れは理解していた。けど、今日は『スペース』か。これは新しいな。



「分かった。ああ、それと明日は昼頃に向かうよ」

『うん。着替えとか生活用品を持ってきてね。それと、ご両親には伝えてある?』

「あ! そうだな。しばらく桜花のところにお世話になる、ってことだよね」


『そうだね、出来れば住んで欲しい』


 す、住んで欲しいって……そんな、おねだりするみたいに言われると、胸がキュンとする。しかもシズカの甘いボイスで……たまらん。


 ていうか、桜花から住んで欲しいって要望を断る男はいない。むしろ、願ったり叶ったり。VTuberと同居、どんな生活になるのか見当もつかない。この果てしない高揚感――ワクワクが止まらないぞ。


「父さんと母さんに言っておく! 桜花、配信がんばってな」

『お風呂からがんばるよっ』


 これまた激甘ボイスに脳汁ドバドバだった。やばい、シズカの声は俺の脳を破壊してしまう恐れがある。最高です。


 そんな時だった。



『お兄ぃ! お兄ってばぁ……うあぁぁぁん……!』



 円香の泣き声が響いた。

 まだ俺の部屋の前にいたのかよ!

 しつこいけど、なんか可哀想になってきた。



『えっ、誰の泣き声?』

「あー…、覚えているかな。妹の円香だ」

『えっ、円香ちゃん! 覚えてるよー。昔よく遊んだもん。そっか、元気?』



 桜花と円香は姉妹のような仲だった。最近まで俺と桜花が疎遠になっていたから、円香も自然と桜花とは遊ばなくなっていたんだよな。



「ああ、最近まではツンツン娘だった。でも、今はちょっと事情が変わった。桜花の――シズカのおかげなんだけどね」

『え? わたし?』

「そうなんだ。お前のファンだってさ」

『そうなの!? へぇ、円香ちゃんがね。それは嬉しい。そうだ、円香ちゃんにもラインを教えておいてあげて』


「いいの? これ以上、リアル関係が増えると情報じょうほう漏洩ろうえいとか」

『大丈夫。ショウくんと円香ちゃんは幼馴染だし、一番信頼している友達だもん』



 ――信頼している。

 その言葉で泣きそうになった。

 ていうか、泣いた。



「ありがとう。円香も喜ぶよ。それじゃ、今度切るよ」

『じゃあ、またねっ』



 電話は切れた。

 ……ふぅ、緊張した。電話越しとはいえ、あの貫禄のある圧倒的ボイスを前にすると、凸した錯覚に陥った。配信ばかり見ていたせいか、とんでもない臨場感だったな。



『お兄ぃぃぃぃ……』

「……あ」



 まだいたのかよー!

 仕方ないな。

 俺は、部屋の前で泣きじゃくる妹を部屋へ招いた。直ぐに桜花のことを伝え、ラインを教えてやった。すると――



「マジ~!? お兄最高じゃん!! あのシズカの……ううん、お姉ちゃんとライン交換とか。も~、それだけでしばらく生きられるわっ」


 円香は喜んで俺に抱きついてきた。うそー…。抱きついてくるとか、十年以上はなかったのに。大体『キモイ』だの『死ね』だの言われる散々な日々だったのになあ。本当、桜花には感謝しかないな。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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