ツンデレ妹もVTuber大好き

 明日、改めて桜花のマンションへ行くことにした。


 今は受け取ったスペアキーを握り込み、歓喜の余韻よいんに浸る。そう、俺はめちゃくちゃ嬉しかった。


 顔にこそ出さなかったけど、暴れたくなるくらい嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。あの全国どころか世界的に大人気の『シズカ』と同居できる。その純然たる事実でテンションが爆上がり、この上ない幸せを噛みしめていた。


 ルンルン気分で自宅へ帰宅。


 ニヤついた表情で部屋へ向かっていると、両親に目撃され、顔を青くして『ギョッ』としていた。今の俺の顔、かなりキモイと思う。でも、関係ない。むしろスキップで階段を上がっちゃうもんねっ。


 二階のある俺の部屋へ目指すと――そこで、非常に仲の悪い妹と鉢合わせた。



「「あ……」」



 視線を合わせると、妹は「お兄、キモイ」と声を上げ素通りしていく。相変わらず、可愛くない妹だな。だが、今は俺の方が立場は上。


 そう、俺は知っていた。


 妹の『小野寺おのでら 円香まどか』は、最近、VTuberにハマっているということを。


 俺と円香の部屋は隣同士。

 たまに音が聞こえていたのだ。

 だから、俺は知っていた。


 この生意気な妹が『シズカ』推しだということに!!


「円香、お前そんな口を俺に聞いていいのか?」


「あぁ!? あのさ、お兄。いくら学校で陰キャぼっちだからって、可愛い妹に構ってもらおうと必死になるの止めてくんない。こっちまで陰気臭いのが移る」


 その生意気な口、直ぐに叩き直してやる。



「お前、VTuberのシズカが好きだろ」



 聞くと「へ……え。な、なんで……知って……」と円香は顔を青くする。よしよし、これだけでも相当な精神的ダメージを与えられたらしい。だけど、まだだ。



「部屋の壁が薄いからな。たまに聞こえてくるんだよ。ちなみに、俺は近所迷惑に配慮してヘッドホンをしているからな!」


「ぐぅ……! そ、それがどうしたの。シズカなんて今すっごく流行っているんだから。ウチの学校でも全員知ってるよ」


「それがな、俺はそのシズカとリアルにお友達になっちゃったんだよなあ」

「は? 友達? 嘘、ありえない。だって……」


 そう、中の人の情報はゼロに等しい。

 転生という噂もないし、特定は困難。


 あのシズカは、まったくの素人から成り上がったスーパーVTuberなのだ。あの耳心地の良い癒し系ボイスのおかげだろうな。


 それが、俺の幼馴染。

 これは今日完全に証明された事実。


「実は今日、合鍵を貰った」

「そ、そんな分かりやすい嘘、信じられるわけないじゃん! いい加減にしてよ。もうお兄と一生話さないよ!」


「それが本当なんだな」


 俺はポケットから、スペアキーを取り出した。


「え……マジ?」

「これだけじゃ証明に弱いだろう」


 ここで俺は、スマホを取り出して『桜花』にライン電話を掛けた。直ぐに出てくれて、スピーカーから声が響く。あの癒しボイスが!!



『もしもし、ショウくん? えっと、どうしたの?』



 その瞬間、円香は(シズカだあああ!!)と分かりやすい表情で驚き、ジタバタしていた。これで分かっただろう。この声は、シズカしかありえない! 唯一無二のスペシャルボイスなのだ。



「いや、なんでもないよ。悪い、また後で電話する」

『うん。明日、楽しみだね。お風呂いくから、またラインするね』


 通話が切れた。

 これで俺の……勝ちだ!


 妹はガクッと項垂うなだれ、その場にへたり込む。完全に脱力して真っ白だ。次第に、プルプル顔を振るわせて俺に涙目で懇願こんがんしてきた。



「……お、お兄。今まで冷たい態度を取ってごめぇ~ん!! 許してぇぇ……」

「お、おい! 円香、そこまで馬鹿泣きするな」



 やっべ、泣かせちゃった。

 いやけれど、なんだろう。

 妹の態度が急変した。


 これがシズカの力ってわけか。



「ごめんね、お兄。あたし、素直じゃなくて」

「いや、俺も中学生の頃はよくグレいたし、思春期ってヤツだな。だから、気持ちは分かる」


「うん、ありがと。じゃあ、シズカのライン教えてくれる!?」


「それとこれとは別だ」


「あぁ!? 馬鹿お兄!! 泣いて損した!!」



 今度は、ぷりぷり怒って立ち上がった。表情がコロコロ変わるヤツだな。頬を膨らませて、円香は自室へ戻っていく。



「でも、近々紹介するよ」

「……お兄。うん」



 あれ、あんな可愛い笑顔したっけ……。円香のヤツ、本当は俺と仲良くしたかったのかな。そうか、俺の方が自然と円香を避けていたのかもしれない。


 おかげで久しぶりに長時間、円香と話せた。少しは昔のように戻れるかな。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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