憧れのVTuberとライン交換

 未だに幼馴染がVTuberだなんて信じられない。けど、アカウントは正真正銘の本物・・だった。あの後、ツイッターやインスタグラムも確認させてもらった。


 静内しずない 桜花おうか


 奇跡的にずっと同じクラス。

 最近まで冷え冷えだった関係だっただけに、まさかこのタイミングで昔のように戻れるとは思わなかった。

 桜花は、金持ちの家に生まれた、ちょっとしたお嬢様。近所だから、昔はよく遊んでいた。子供の頃は毎日遊ぶほど仲が良かった。けれど、中学校の頃になると自然と関係がフェードアウト。というか、桜花の方が多忙になって疎遠そえんになった。


 それが今は、憧れのVTuberだなんて――信じられない。


 昼休みなれば、ほとんどの男が『静花シズカ』の名を口にする。学生の中でも知名度は圧倒的らしい。



「昨晩もシズカの視聴者数凄かったよな~」「同接十万人だっけ」「平日で凄くね」「投げ銭も一日で三千万円以上って噂だぞ」「うわぁ、金持ちじゃん」「そりゃ可愛いし、コメントも一人一人ちゃんと読んでくれるからな」「ゲームも上手い!」「あのガワは最強に可愛いよな。あの癒し系ボイスもたまらん」「ASMRの売り上げ過去最高だって」



 俺も知っている情報だった。

 だが、ヤツらは知らない。

 そのシズカが俺の幼馴染であることに。


 そうか、俺と桜花だけの秘密なんだな。そう思うと、俺はファンの誰よりもリードしていることになる。ちょっとした優越感。


 しかし、桜花はリアルでも人気があった。もちろん、VTuberであることはバレていないようだけど、中の人は中の人で超がつく美人だ。

 なんでVTuberなのか理解できないほどだ。正直、あの女優系の容姿なら、モデルとか、それこそ女優とかでも良かったと思うけどな。


 腰まで伸びる髪。

 胸も大きいし、スタイルも抜群。


 そりゃ、男子は黙っていない。

 隅の席で見守っていると、同じクラスの陽キャ男(名前忘れた)がやってきて桜花を誘っていた。一瞬焦るが、桜花はニコニコスマイルで断って俺の方へ向かってきた。



「良かったのか、桜花」

「吉田くんから、ライン交換しなかってお願いされたけど、もちろん断った。あ、そうだ、まだショウくんと交換していなかったね。ライン交換しよっか」


「マジ?」


 驚いた。

 俺となら交換してくれるんだ。ついでに、こちらの話し声が聞こえたのか、さっきの陽キャ男(吉田)が振り向いて愕然がくぜんとしている。


 俺はスマホを取り出した。


「電話番号でお願い」

「え、いいのか。超絶ぼっちのVTuberオタクの俺なんかに教えて」

「いいよ。だって、幼馴染だし。それに、これから一緒に住むかもでしょ?」


 あのシズカボイスでささやいてくれる桜花。耳が幸せ! それに、良い笑顔だ。なんか昔もだったけど、桜花の笑顔には癒される。これだけでお腹いっぱいになるな。


 ラインを交換完了。


 スタンプを送り合って送受信を確認した。ついでに、桜花の日記も確認してみると、食べ物ばかりだった。ケーキやパフェの写真が多いな。……ふぅ、とりあえず男関係はなしか。


「これでオッケーだな」

「うん。ていうか、わたしの日記見てる!?」

「全体公開だから、登録さえしちゃえば閲覧できちゃうからな」

「ダ、ダメ! 見ないで、恥ずかしいから!」


 俺のスマホを取り上げようと、身を乗り出してくる桜花。覆いかぶさるように来るものだから、胸が接触して――!!


 うわッ、まずいって!!

 柔らか……そうじゃないッ。


「分かった分かった。見ないから、落ち着けって」

「うん。だってさ、結構食べてるから……」

「いや、別にいいだろ。桜花は、スイーツとか好きだろ。それくらい昔から知ってるって」

「そ、そっか。ショウくんになら秘密がバレてもいっか」


 納得してくれて桜花は機嫌を取り戻した。そうか、相変わらずスイーツ大好きなんだな。



「ごめんね。その、こんなに食べてるのバレると後々怖いから」

「なんで? 体型に問題はないと思うけど、細いし」

「ううん、そうじゃないの。マネージャーに怒られるの」


「は? え? VTuberってマネージャーいるものなの?」

「うん。いるよ? だってエコーVTuber事務所に所属してるんだもん」


 ああ、そうか。

 ネットタレントというくくりになるから、事務所に所属するのは自然の流れなわけか。そもそも、VTuberになるのはそういう事務所に入るものらしい。


 当然、マネージャーもつくわけか。


「って、マネージャーって……まさか」

「あはは、心配しすぎ。ショウくん、マネージャーさんは女の人・・・だよ」

「ほ……。良かった」

「ふぅん、気にしてくれるんだ」


 ニヤニヤと見つめられ、俺は桜花に視線を合わせられなくなった。くぅ、からかわれてるな、これ。でも、なぜか幸せだ。


 多分、長い事女子と話すという機会がなかったせいだな。中学三年から、ずっとシズカを追っていたし、投げ銭生活だったからな。


 俺は、段々と桜花を意識するようになっていた。……誰にも渡したくない。



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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