第2話
この不具合に気付いたのは、私のマンションにトーマが届いてすぐだった。
「え、本当にこれロボットなの? すごいクオリティ」
ぺたぺたとロボットを両手で挟むように触る。温度は無いが質感は人間そのもので、なんだか私の方が恥ずかしくなってくる。
しかし彼が間違いなくロボットであることの証明が左手首にあった。巻き付くように描かれた、小さなダイヤが12個連なるチェーンマーク。
このロボットを造ったD.D.社のロゴマークだ。
「お名前は?」
「ダース=ダイヤモンド社製ヒューマンロボット、分類番号T-0100。トーマとお呼びください」
「トーマ、良い名前ね。あと声もかっこいい」
「ありがとうございます、マスター」
トーマは表情を一切変えないまま小さく頭を下げた。その仕草もなんだか無骨な感じで悪くない。
「あなたは何ができるの?」
「家事、炊事、ショッピングをはじめ、アラーム、検索、雑談、大事な会議におけるプレゼン前日の緊張緩和まで、マスターの毎日をあらゆる面からサポートします」
「わあ、完璧だ」
「現状不可能な作業もデータを登録すれば可能になります。マスターのお好みでカスタマイズしてください」
「最高だね。よーし、じゃあ私が手取り足取り教えたげよう」
会社の部下の教育は熱が入らないが、こんなイケメンなら話が別だ。顔が良いというのはそれだけで双方にとって大きなメリットになる。
ふとニヤニヤしている自分に気付いて、私は慌てて表情を整えた。こんな顔、部下には絶対見せられない。
「さてトーマ。早速お願いしたいんだけど」
「なんなりとマスター」
「じゃあ昼ご飯を作ってもらえる?」
私の依頼に、彼はやはり表情を変えないまま低く響く声で言った。
「嫌です。マスター」
「そんなことある?」
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