私の完璧なロボット

池田春哉

第1話

 私のロボットは完璧だった。

 料理、洗濯、掃除とあらゆる家事をこなす。買い物だって道順と購入物を登録さえすれば勝手に行ってくれるし、割引シールを判別して価格をできるだけ抑えてくれるという気の回しようだ。

 会話だってお手の物で、適当に話しかけても気の利いた返しをしてくれる。

「トーマ、何か面白いこと言って」

「会話で一番返事に困るセリフランキング1位が『何か面白いこと言って』というのはご存じですか。会話の流れも何もない中で相手が面白いと感じる話をするのは非常に困難ですし、そのハードルの上がった空気で話し手も緊張してしまうからです。ちなみにそのセリフを多用する人の友達は少ない、という統計が取られています」

「うるさい」

 そして見た目もイケメンだ。長身塩顔の清潔感男子。好みのタイプど真ん中。

 『ロボットの外見にこだわった』というコピーを打ち出すブランドだけはある。見た目はほとんど人間と変わらない。

 まるで理想の彼氏と同棲している気分だ。給料4ヶ月分とボーナス1回分をつぎ込んだが、私はまったく後悔していなかった。

 そんな顧客満足度の高い、私の完璧なロボットだが。

 ただ1点だけ小さなバグがあった。

「トーマ、オムライスを作って」

 私が夕飯のリクエストをすると。

 トーマは私好みに設定された低音域の声で答える。


「はい、嫌です。マスター」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る