第1話 強敵小学生
「てめえ……
「は? 日本語勉強してから来いや。お前らこそ、か弱い女相手にカツアゲしろなんて教育受けたのかよ。それこそ人間のクズだろ、親が泣くよ?」
「こっの、クソガキがああぁ!!」
3人組ヤンキーが彼に殴り掛かる。思わず、あっ、と出した声に男の子は私を見て、歯を見せ笑った。
その瞬間、背負い投げ、腹パン、飛び蹴り、その全ての技がヤンキー達にクリーンヒットしたらしく……道に
「こいつ……次見掛けたらタダじゃおかねえからな」
「次だって返り討ちにしてやる」
ヤンキー達はそのまま足早に逃げ帰っていく。私はただ呆然とその様子を見ていた。
「大丈夫、お姉さん? 怪我してない?」
「だっ。大丈夫ですっ……たた、助けていただきありがとう、ございました」
そう言いつつ頭を下げると、その頭を撫でられてしまう。
「そんなにかしこまらないでよ。俺の方が年下なんだしさ? お姉さんって、俺の隣に住んでる人だよね。
「と、隣? あなたは、お隣さんですか?」
「そっ。でもまあ近所付き合い薄い方だし、俺の事認識してなくて当然だよね」
そう言われてしまうと申し訳なくなり再び頭を下げた。そんな私を彼はまた撫でながら、笑っている。
「お姉さんは、かれん、だよね」
「……! そうです。よく分かりましたね、あ、似てないから見分けなんてすぐ付きますよね」
如月
二卵性双生児で生まれて、妹の
「そうだね。だって可愛さのレベルが違うからさ」
ズキッと胸が痛む。
こんな小学生にまで貶される日が来るなんて。
「もう一人居るよね、何か派手な女がさ。名前知らないけど」
「えっと、海姫の事ですか?」
「まりん? へえ、あのブサイクそんな名前なんだ。かれんの方が何万倍も可愛いと思うよ。俺はあんたの事、すっげー好き」
何かの聞き間違いだろうか? 私が可愛いなんて今まで言われた事はない。
「えっと、海姫は私の妹です。とても可愛い子なんですよ。それで私は姉の華憐で、可愛くないです。多分あなたは妹と姉の私を間違えて──」
「何言ってんの? 俺はね派手な女が嫌いなの。露出魔かよってぐらい肌出すし。お姉さんさ、家族からも嫌われてんでしょ? 俺見てたよ、ずっと……」
この子は何を言ってるんだろう。どうしてそんなに優しい目で私を見てくるの?
「ねえ、予約しておいてもいい?」
「よ、予約ですか? 私お店なんて──」
「将来俺はあんたを妻にする。その旦那として予約してもいい?」
小学生、だよね? 背負ってるランドセルを見ないと大人びた雰囲気に飲み込まれそうになる。
優しくされる事に慣れてなくてどうすればいいのか、分からない。
「あの……えっと……」
「ごめん。急すぎたよね。それより家まで送るよ。一緒に帰ろう?」
私より背は低め、成長期なんだと思うけど……。道着を持っているのをみると何か習い事してるのかな? 年上の女の人相手にサラリとイケメンな事を言えちゃうなんて……。
「あ、俺自己紹介してないじゃん。ごめん。俺はね隣に住んでる小学六年生だよ、名前は
にこりと笑う顔は爽やかな印象を受ける。黒髪がサラサラしていて少し焼けた肌と目にかかる前髪が彼のイケメン度をあげている気がする。
「よ、よろしくお願いします。えっと、何とお呼びすればいいでしょうか?」
「え、お姉さんってば。俺の方が年下だよ? ま、そういう所も好きだけどさ。涼雅でいいよ。俺はお姉さんの事、カレンって呼ぶし。いい?」
完全にリードされる形で私は頷く。涼雅君は女の子の扱いに慣れている気がする。きっと学校でも人気者なんだろうなって、そう思う。
「カレンはさ、今好きな人とか彼氏とかいるの?」
「えっ!? い、居ませんよッ! こんななりですし、私は嫌われ者ですから。こんな私を好きになるなんて……そんな人一生居ないかと……」
ぼそぼそと小声で呟く。いつもウジウジしてて、オドオドしてて、腹が立つって言われて……。きっとこの子も……。
「居るよ。そんな事言わないで? 俺はカレンの旦那候補だよ? 世の中の人間がカレンをいじめるなら俺はそいつらをぶっ飛ばすよ」
何でそんな風に言えるんだろう。何でそんなに優しい目で私を見るの? 私は──。
「涼雅君は私の事を誤解しています。私はあなたが思うような人ではありません。きっとそうです。私の事なんて気にせずに、あなたはあなたの道を生きた方が──」
「誤解してるのはあんただよ、カレン。あんたは自分のことを誤解してる。俺があんたを変えてやるから」
ちょっとイケメンすぎて、彼が眩しくて直視できない。
どうしてそんな風に言えるの? 本当にキラキラして、彼の事をうらやましく思った。
私も君みたいに、キラキラ輝けたら良かったのにな……。なんて。
年下の恋人 佐倉野美智(さくらのみち) @miki6831
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