第15話 泥遊び
「よう、おはよう!」
「おはよー」
井戸端で歯磨きをしていると、段が後ろから大声で挨拶をしてきた。
俺は歯ブラシをくわえたまま挨拶を返してから、歯ブラシを口から出す。
「お経の説法はもう勘弁してくれよジョーダン。」
俺は昨日の歓迎の宴で酔っぱらった段に法華経とやらの長々とした解説を無理矢理聞かされてうんざりしていた。
「俺そんな事話してたか?」
(酔って覚えていないパターンかよ……)
この世界に来る前は食事すらしていなかった連中が酒に耐性があるわけもないのだが、不覚にもその事を失念していた俺は、酒宴が始まる前に対策を講じる事ができなかった。
その結果、昨日は酔った4人の暴走に付き合わされる羽目になってしまったのだ。
いや、イザネだけは暴走する前に墜落していたと言った方が正しい表現だろう。
「確か、何もない真空が自らが何者であるか知るためにビッグバンを起こして、世界を作って自らを認識してくれる存在を求めたんだっけ?」
俺は昨日の酒の席で段にさんざん聞かされたお経の一説をうろ覚えで喋った。
「へぇ、よくわかってるじゃないか。」
「全然わからねぇよ!
なんで何もない真空が世界を作れるんだよ?
なにもないなら、なにもできないだろ?」
昨晩は段が酔って適当な事を言っているものと思っていたが、この反応を見ると本当にそういう教えがあるようだ。
理屈は全くわからないが。
「なにもないからこそ、なんでもある状態。
そしてそれは入滅した如来たちの集合体でもある。
つまりは大宇宙の大いなる意思のようなものだ。
人は何度も生まれ変わりを繰り返しながらそこを目指す存在なんだ。」
「益々わかんねーよ!
大宇宙の大いなる意思ってなんだよ?」
俺には理屈がおかしくなって話が迷走しているようにしか思えなかったのだが、段は胸を張って俺の問いに答える。
「強いて例えるならば、マスター達の話していた無限力イーデとかゲシター線のようなものだ。」
「イーデもゲシター線もわからねーよ。
それじゃ、なにか?
おまえら坊主はそのイーデやゲシターと一体になるために修行しているのか?」
「そうだぞ。
ゲシターと一体になるのだ!」
段は益々話に熱が入ってきているようだが、これ以上この話に付き合うのは止めた方がよさそうだ。
そういやこいつが”自称”坊主である事を忘れていた。
「へいへい、そーですかい。」
俺は再び歯ブラシを口にくわえる。
「なんだよ、カイルにはまだ法華経は早すぎたかぁ?」
俺の隣でぼやきながら段も井戸水に歯ブラシを浸し、それを口に運ぶ。
シャカシャカシャカ……
しばらく段と肩を並べて歯を磨いていると、後ろの方から声が聞こえてきた……。
「なぁ、あの後俺はどうなったんだよ?」
「クスクスクス」
振り向くと不安そうなイザネとべべ王がこちらに向かって歩いてくる。
「なぁ、俺は酒を飲んだ後の事を覚えてねーんだが、どうなったんだ?
べべ王に尋ねても教えてくれないんだよ。」
俺達を発見したイザネが、べべ王を相手にするのを諦めてこちらに向かって問いかける。
(ああ、なるほど。
べべ王がイザネをからかっていたのか。)
俺は事態を理解した。
「やけに陽気になってから、激しく笑った後すぐに寝たよ。」
「それだけか?
寝た後は俺、変な事してなかったか?」
イザネが俺の話に食いついてくる。
「東風に聞けばいいんじゃねーか?
眠ったイザネを宿まで運んだのはあいつだぜ。」
段がイザネ達の後ろから、のそのそとこちらに向かってやって来る東風さんを指さして言った。
昨日飲み過ぎたのだろう。
東風さんは少しダルそうだ。
「おはようございます、みなさん。」
挨拶をする東風さんの腕を引っ張ってイザネがなにか耳打ちをする。
「ああ、心配ありませんよ。
イザ姐は宿で寝てただけで、運んでる途中だって特に変な事はしてませんでしたから。
それよりイザ姐を宿に送った後の記憶が曖昧なのですが、私の方こそどうしたのでしょうか?
私もイザ姐のように酔って寝てしまったのですか?」
不安そうにする東風さんを見て、段がプッと吹き出す。
「それは聞かない方がいいと思いますよ……」
俺はおかしそうに笑いをこらえている段を横目に見ながら東風さんにそう答えたが、べべ王はお構いなしだった。
「東ちゃんはゼベックと一緒に裸踊りをしとったぞ。
いや、あれは面白かった。
次の酒宴でもまたやって欲しいくらいじゃ。」
「は……はだっ……」
東風さんの手から歯ブラシが滑り落ち、イザネが地面に落ちる前にキャッチする。
段は、遂に笑いを堪えられなくなり爆笑している。
「まあ酒の席での事ですし、みんな大目に見てくれますよ東風さん。」
「そうでしょうか……?」
俺は精一杯のフォローをしたつもりだったが、東風さんは落ち込んだ様子でイザネから力なく歯ブラシを受け取っている。
「気にすんなよ東風!
クリスから聞いたんだが、ゼベックのおっさんも酒宴の度にやらかすが翌日にはケロッとしてるらしいぞ。」
「私はあの方のようになれる自信がありませんよ。」
東風さんは、井戸水で歯ブラシを濡らしながら言う。
「爺さんだって、酒癖が良いわけじゃないんだからな。
他人事だと思ってんじゃねーぞ!」
俺の隣でクスクス笑っているべべ王を見下ろしながら俺は言ってやった。
昨晩、何度暗黒龍との戦いの自慢話をこいつから聞かされた事か。
”攻略法を教えてやる”と言われたって、会う事もないであろうモンスターを聞いた事もない魔法や技で倒す話を暗記したところで何の役にもたたない。
「やっぱ、マスター達の言ってたとおり酒は20才になってからの方が良かったのかな?」
昨日の事を気にしているらしく、イザネがぼやく。
イザネの酒癖は害がなく、むしろかわいいくらいの物だったのだが本人は気にしているようだ。
「この国では18から酒を飲んでいい事になってるんだから、問題ないって昨日も言ったろ。
だいたい20才からなら、俺だって酒を飲めなくなるじゃないか。
自分にとって適量な酒の量を覚えればいいんだよ。」
俺はイザネの言う事に反発した。
ゼベックのようなおっさんが最も酒癖が悪いのだから酒癖の酷さと年齢は関係ないのだ。
東風さんみたいなタイプは流石に酔い過ぎないように気を付けた方がいいのだろうけど。
俺は力なく歯ブラシをくわえる東風さんを見上げた。
(立ち直るまで暫く時間が掛かりそうだな。)
「あーっ、おっきいぞうさんだーっ!」
声のした方を振り向くと、東風さんを指さすメルルちゃんの口をララさんが慌てて塞いでいる。
子供は無邪気であるが故に時に残酷でもある。
東風さんの口から滑り落ちた歯ブラシを、口に歯ブラシをくわえたイザネが無言でキャッチした。
* * *
「食事が終わったらスライム退治に行くぞーっ!!」
朝食の場に遅れて入ってきたべべ王が大声で気合を入れる。
宿の外で村長と二人で話をしていたのはこの相談だったのか。
『うおおおぉぉ!』
食事中の思わぬ朗報に喜ぶ段とイザネ。
まだ立ち直れない東風さんの反応は薄い。
「今日は俺達の新しい家の掃除する予定じゃなかったのか?」
そもそもスライムが湧いているのは遥か南東の沼地。
大猿に村を滅茶苦茶にされた村長としては、村の近くにモンスターがいるだけで落ち着かないのだろうが、緊急の要件ではない筈だ。
俺はいつまでもバンカーさんの宿のやっかいになる事に心苦しさを感じていた。
「それは手の空いた村の人たちがやっといてくれるそうじゃ。」
「それならいいけど。」
村としては大猿退治の謝礼も払えない有様なのだ。
家の掃除の代行くらいしか俺達にしてやれる事がないと判断しての提案なのだろう。
べべ王の言葉から俺はそう察した。
「こっちの世界に来てから、全然モンスターと戦ってなかったからな!
スライムなんて楽勝だろうけど、戦えないより全然マシだぜ!」
待ちきれない様子でイザネが肩を回す。
だがしかし、スライムが楽勝だって?
確かに対処法さえ知っていればなんて事ないかもしれないが、戦士系クラスにとっては不意打ちをくらえば致命傷にもなりかねない程の強敵の筈だ。
俺は試しに聞いてみる事にした。
「スライムの対処法知ってる?」
俺はイザネに問いかけたが、イザネはキョトンとしている。
「スライムなんて、普通にぶん殴ればすぐ倒せるだろ?」
(え?)
スライムが戦士系のクラスにとって強敵なのは、軟体生物であるが故に斬っても殴ってもダメージを与えられないからである。
おまけに溶解液で武器や防具を溶かしてくるため、戦士が普通に戦える相手ではない。
油をかけて焼き払う等の方法を用いるのが普通の筈だ。
(いや、まてよ……)
確かに普通の武器ではスライムは倒せないが、エンチャントウェポン等の魔法で強化を行った武器であるならば問題なく倒せる。
恐らくべべ王がエンチャントウェポン系の魔法を覚えているのか、それともイザネの武器に元々魔力が付与されているのだろう。
考えてみれば暗黒龍の素材で作った特殊な武器なのだから、俺の知らないような不可思議な力を持っていても不思議ではない。
「ならいいけど。」
俺はこれ以上は追及しない事にした。
「イザネは大猿と戦ってるから、まだいいだろ。
俺なんて、まだ一匹もモンスターを倒してないんだぜ。」
うずうずして待ちきれない様子の段がそう言うのを聞いて、俺はべべ王がこのタイミングでスライム退治を提案した真意をようやく悟った。
クランメンバーの不満を見抜き、それを少しでも解消するためにスライム退治をしようというのだ。
掃除を村の人に任せるのも、これ以上面倒くさい事でフラストレーションをクランメンバ ーに溜めさせない為の措置と考えるなら納得がいく事だった。
(普段はふざけていても、この爺さんはちゃんとクランマスターとしての役割は果たしているんだな。)
「東ちゃん、まだ昨日の事を気にしとるのか?
ちゃんと皆にうけていたし、むしろおいしいくらいじゃぞ。
メルルちゃんも、またでっかいぞうさん見たいじゃろ~。」
(いや、クランマスターの仕事をちゃんとしているのに、普段の態度がそれを台無しにしていると考えた方がいいな。)
俺の隣で相変わらずいじけている東風さんを弄ってクスクス笑うべべ王を見て、俺は少しだけ評価をマイナスに修正した。
「なにやってるんですかお爺ちゃん!
子供に言う事じゃないでしょう!?」
給仕の手伝いに来ていたメルルちゃんを下品な悪ふざけに巻き込んだ事に腹を立てたララさんに叱られ、いつものようにべべ王が頭を下げる。
「ごめんなさい。」
* * *
「うっわ、こんだけ数がいるとちょっと気持ち悪いな。」
スライムが大量発生したという沼地は村から小一時間歩いた地点にあった。
イザネの言うように、大量発生したスライムで沼全体がうごめいているように見えて気持ちのいい物ではない。
「しかし、これだけの数がいるのであれば少しは歯ごたえがありそうです。」
東風さんが腰に下げた大きな包丁のようなナイフを両手に構える。
今朝から余程うっぷんが溜まっていたのだろう。
普段の東風さんよりかなり攻撃的になっているようだ。
「この世界に来て初めて相手にするモンスターが如何ほどの物か、お手並み拝見と参りますか……」
バシャ……ン
次の瞬間、東風さんは沼に飛び込んでいた。
シュッバッ……バババッバッ!
東風さんは物凄い勢いでナイフを振り回して周囲のスライムを切り刻んでいるのだが、スライム達が怯む様子がまるでない。
(もしかして、東風さんの武器にはエンチャントや属性は付与されてないのか?)
バシャァァッ!
気付くと東風さんに続いてイザネも沼に飛び込んでいた。
「俺にもやらせろよ東風!
おりゃ!」
イザネは勢いよく周囲のスライムをメイスで殴りつけるが、スライムにはまるで効果がない。
「イザ姐!こいつら攻撃がききませんよ!」
「うえぇぇぇっ!」
ようやく東風さんが異常に気付き、スライムに取り囲まれたイザネが悲鳴を上げる。
「なにやってんだよべべ王!
早く二人にエンチャントウェポンを!」
俺は慌ててべべ王に魔法を要求したが、べべ王は魔法を唱えようともしない。
「そのエンチャントウェポンってなんじゃ?」
「”なんじゃ”って、武器に魔法のエンチャントを付与する……
もしかしてエンチャント系の魔法を覚えてない?」
「ごめんなさい。」
頭を下げるべべ王を見て俺は頭を抱えた。
(スライムをどんなモンスターだと思ってたんだよこいつら!)
「要するに魔法は有効なんだろう。
ならば俺の出番だな!
『おん ばざら だらま きり……むごっ!」
呪文を唱え始めた段の口を俺は慌てて塞いだ。
「おまえ!今魔法を唱えたら二人を巻き添えにする事もわからないのかよ!」
「そういやFF(フレンドリファイア)ありだったな。
忘れてたぜ。
つい、いつもの癖でやっちまった。」
まったくもう!
俺はカバンから魔導弓を取り出し、わざと弱々しいマジックアローを生成し始める。
(だから魔法を手加減して撃つ練習も必要なんだよ……)
幾ら弱いマジックアローでも、この魔導弓を使用するならスライム退治くらい余裕だろう。
これでも二人に被害が出る可能性は排除できないのだが、このまま放っておけば二人が沼に引きずりこまれかねない。
ドウッ
沼から爆炎が上がり、東風さんの周囲のスライムが吹き飛ぶ。
どうやら火薬を使って沼の表層のスライムを爆破したようだが、沼の底にいるスライムまでは排除できてはいないようだ。
「火薬は有効のようですが、沼の底にいるスライムまでは届かないですね。」
東風さんはこの隙にスライムの囲みを抜け、再び囲まれないよう沼の端の方へ移動する。
これで残る問題はイザネだけなのだが……。
「うひぃぃぃぃっ」
胸までスライムにたかられてイザネが悲鳴を上げる。
服を溶かされる様子もなければ肌がただれてもいない事から、防御力アップの指輪も毒耐性の指輪もスライムの攻撃を無効化してくれているようだ。
しかし、イザネの振り回すメイスもスライム相手には相変わらず何の役にもたっていない。
俺は生成したアイスアローを魔導弓にセットする。
(イザネから少し距離を空けないと危険だよな。)
とはいえ、実際にどのくらい距離を空ければいいかなんてわからない。
(勘だよりでやるしかないのか……)
その時、狙いに迷う俺を遮るようにべべ王が俺の前に割り込んできた。
「ま、カイルが無理をせんでもわしが行けばなんとかなるじゃろ。」
べべ王が腰の小さな杖を引き抜くと杖の先から光が伸び、剣のような光の刃を形成する。
この爺さんは騎士の癖に剣も槍も持っていないのはなぜかと思っていたが、この杖が剣の役割もするようだ。
「ほい!」
ジュ……
べべ王が光の剣で近くのスライムをつつくと、スライムは一瞬で蒸発する。
異世界の者にとってはこれが当たり前なのかもしれないが、いつもの事ながら桁外れの威力に俺は目を見張ってしまう。
「ほい!ほい!ほい!ほほい!ほい!」
べべ王がリズムカルに沼のスライムを突っつき道を作りながらイザネ救出に向かう。
だが、少々遅かったようだ。
「ひっ!このっ!もういい加減にぃぃぃっ!」
服の下までスライムに侵入され、やけくそ気味になったイザネが振り上げたメイスが青白く光る。
東風さんは、それを見た途端に沼から大きくジャンプして素早く離れ、べべ王は大きな顔をかたどった盾を構えて飛び下がり、段は俺の襟首を掴んでべべ王の後ろに避難した。
「狼牙空塵砕!」
ズドッ……!!
イザネの叫び声と共にメイスを叩きつけると沼が破裂するように爆発した。
泥とスライムの破片が空から容赦なく俺達に降り注ぐ。
「なんだよ、もぅ……」
全身泥とスライムまみれになったイザネが、沼のあったくぼみからこちらに歩いてくる。
どうやら、さっきの一撃で殆どのスライムを倒せたようだが、倒した本人もこの惨状とは……。
* * *
『おん きりきり ばさら うんはった!』
段が炎の魔法で、残ったスライムを掃討する。
沼はイザネの一撃で吹き飛び、段の魔法で干からびて完全に姿を消した。
とはいえイザネが更に大きなくぼみを掘ったのだから、次に雨が降ったのなら以前より大きな沼地が出来上がる事になるのだろうが。
「なぁ、まだ顔に泥ついてるか?」
俺に借りたタオルを手にイザネが聞く。
「顎のとこに少し・・・いやそっちじゃなくて。」
俺は指をさして汚れている箇所をイザネに教える。
考えてみれば、こいつらは俺と違って冒険に使う道具を殆ど持ってきていない。
ポーションくらいは持ってきているようだが、タオルも水筒も俺以外誰も持ってきていなかった。
生活力という物をまるで感じられない。
「なぁ、さっきはどうやってスライムを倒したんだ?」
俺はさっきイザネが起こした爆発の正体が知りたくて質問してみた。
「ああ、気合いれてぶっ叩くと、ああいう技ができるんだよ。」
気合だって?
いや、気合だけでできる訳がない。
どう考えても技を放つ直前に見た青白い光は魔力だった。
ファイターが気合だけで魔力を操るなどという話は、いわゆる魔法剣士系のクラスの話でも俺は聞いた事がなかった。
とはいえ、スライムに有効であった事を考えるならば武器に魔力を込めて爆発させたと考えるのが妥当だ。
一体どういう技術体系なのだろうか。
「しっかし、酷い匂いですね。
ドラゴン・ザ・ドゥームのスライムにはこんな臭いはありませんでしたよ。
ところで、この状態異常の解除はどうするのですか?」
考え込んでいた俺に泥とスライムまみれの東風さんが質問するが、俺はその言葉に耳を疑った。
状態異常の解除ってなんだよ。
「いや、洗濯するしかないんじゃないですか?」
「その洗濯とはなんなんじゃ?
魔法かなんかで、この状態異常を解除した方が早いんじゃないか?」
べべ王の言葉でやっと俺は気づく。
そうか、これも教えないといけないのか・・・。
「自動で洗濯をしてくれるような、そんな便利な魔法なんてないよ。
それに早く村に帰った方がいいぜ。。
時間が経って乾いてしまうと、汚れがなかなか落ちなくなるから。」
「この臭いが取れなくなるのかよ!
冗談じゃねぇ!」
スライムを焼き終えた段が慌てて村に向かって駆け足で走り出し、俺達もそれを追うように続いた。
(バンカーさんに頼んで、風呂も使わせてもらえないかな・・・)
泥のこびりついた服が肌に触れる不快感が俺を襲っていた。
* * *
「すいませんララさん。
こんな事まで手伝わせてしまって。」
「いえ、いいのよ。
スライム退治をただ同然でやって貰ったんだしこれくらいは。」
俺は洗濯板を突き合わせたララさんと洗濯物をこすりながら会話をする。
東風さんは上半身裸で、腰には村で借りた大きな布を巻き、用意して貰った大きめの洗濯板を使って太い指で器用に洗濯物の汚れを落としていく。
どうやら東風さんは、こういう地道な作業が嫌いではないようで助かる。
問題は残りの三人だ。
あいつらはすぐに洗濯に飽きてしまい、今は思い思いに遊んでいる。
「ほーら、メルルちゃーん。
ばっしゃーん」
「きゃははははっ
えーい」
イザネはメルルちゃんが気に入ったらしく、洗濯用の大きな桶の水をかけ合って遊んでいた。
まぁ、それでもイザネはまだ許せるんだよ。
メルルちゃんも喜んでるし。
いくら服が洗濯中だからって胸には布を巻いただけで、腰にも下着同然の布しかつけてない恰好で遊んでいるのはどうかと思うけどさ。
初めて会った時もあんな恰好だったし、本人が気にしてないのが余計にやりにくいけど、それでも許せるんだよ、まだ。
バシャッ
メルルちゃんとイザネを見る俺の背中を水しぶきが襲う。
「おら、ジジイ」
「やりおったなジョーダン」
ジジイとハゲ親父が水をかけ合って遊んでるとこなんて見たくもなかった。
俺はその光景になにかを諦め、洗濯物に集中した。
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