第233話 メルディンでの戦い
メルディン王国から少し離れた荒野で凄まじいオーラを放つ一人の少女、そして相対する巨人とがしのぎを削り合っている。
少女が剣を振り下ろすごとに大地は削れ天は分かたれる。
対する巨人はその斬撃に触れるとその力を吸収し、逆に更なる力を上乗せして少女に攻撃する。
その二者の戦いは誰も介入することが出来ない。
周囲に居るメルディン王国軍はただ互いに声援を掛け合いながら他の魔神族との攻防を繰り広げていた。
「魔王はカリン様に任せて俺達は他の魔神族を倒すんだ! 皆、気張れよ!」
己らを鼓舞して王国の兵士達は未だ数の減らぬ魔神族たちを相手取る。しかし、一体一体がA級冒険者並みの強さを誇る上級魔神族が数十にも及ぶ。
とても王国兵士達で対処することは出来ないだろう。
「相変わらず厄介だね、暴食の力は」
そう言うと、カリンは更に自身の力を高めていく。
「勇王権限!」
カリンの持つ能力、『勇者』の中で最強の力である勇王権限。この力を使えばただでさえ高いカリンの能力強度は1000倍にも膨れ上がる。
「
クロノによって増強された黒い刀は以前とは比較にならないほどに増加された強度で斬撃を作り出す。
対する暴食の魔王は口を大きく開けてその斬撃をも吸い込もうとする。
【
怪しげに広がってゆく漆黒の力が暴食の魔王の口からその斬撃へと注がれていく。これが暴食の魔王の吸収能力。
しかし、先程作り出されたばかりなのか、以前の暴食の魔王よりも能力の強さは劣る。
カリンの繰り出した斬撃は吸収し尽くされることはなく、暴食の魔王の顔に深々とした大きな傷をつけることに成功する。
「やっぱり、前よりも弱くなってるみたいだね。だったら早めに倒しちゃうよ!
今度はカリンから徐々に赤黒い力が広がっていく。そしてその力は顔に大きな傷をつけられてその場でうめく暴食の魔王をも飲み込んでゆく。
「開放」
次の瞬間、天へと続くほどの壮絶な赤黒いオーラの柱が暴食の魔王を飲み込む。それはさながら天から打ち出された獄炎の光線のように暴食の魔王の身体を焼き尽くしていく。
【
それを吸収しようとするも、あまりの出量にその力が追い付けない。ただ、鼓膜が割れんばかりの衝撃波を伴いながら、魔王はその身を焼かれる。
そうして赤黒い力が消え去ったころ、そこにあったはずの暴食の魔王の姿は跡形もなく消えているのであった。
それを見てカリンは魔王を打ち倒せたと確信すると、黒い刀を掲げる。
「カリン様が魔王を打倒したぞ!」
「我らも続くのだ!」
カリンが魔王を倒したことで人間側の士気が最高潮へと達する。
「あそこでは雷姫が戦ってる! 我らはまだ負けてないぞ!」
「誰だあれは? フード被ってて顔は見えねえが滅茶苦茶強いぞ!」
「もしかして王の影じゃないか?」
劣勢続きであった戦いも敵の主力が倒れたことにより、一気に形勢が傾く。あの時とは違い、成長した若き英雄たちの力によってその力の差は埋まりつつあった。
そして魔神族側はというと、主力が倒され、若干陣形が崩れつつある。それでもなお、個の力によって次から次へと戦士たちを蹴散らしていた。
そんな最中、突如として上空から炎の息吹が打ち下ろされる。
地上で炎に苦しむ魔神族たち。
次に放たれるのは大地をも揺るがす破壊の力。
ドンという音が鳴ったかと思えば、次の瞬間、凄まじい力が魔神族たちを襲う。
「あれは、ドラゴン?」
「いやいやいや、そんな事より見ろよ! あの黒い装束!」
「ま、まさか黒の執行者様じゃないか?」
「黒の執行者様が来てくださったぞ!」
赤く大きなドラゴン、そしてかつての英雄、黒の執行者が現れたところで事態は更に人間側へ好転する。
全てを焼き尽くすほどの炎の息吹は魔神族たちを焼き払い、黒の執行者が放つ漆黒の破壊の力は魔神族たちを打倒していく。
そうしてある程度暴れた黒の執行者は空中へと浮かび上がり、右手を天に向ける。
その上には黒い破壊のオーラを纏った球体が浮かんでいるのである。
「
刹那、破壊の力が世界を覆った。空気は凍てつき、天は二つに分かたれる。やがてその破壊の力は魔神族の軍勢の全てを呑み尽くし、崩壊へと導くのであった。
♢
「クロノ!」
黒の執行者の状態を解いた俺の下にカリンとライカが走ってくるのが見える。どうやらリア様とは一緒じゃないみたいだな。
「二人とも無事みたいだな」
「うん」
「いや、ていうかいきなり魔神族がいっぱい来てビックリしたよ。また魔神が復活したんじゃないかってくらい」
「ああ。そのまさかだ。魔神が復活した」
俺がそう告げると二人はえっと驚いたような声を漏らす。まあ、そうだな。こんな早く復活するなんて普通だったら考えられない。
「リア様はどこにいる?」
「リア? リアならちょっと前にガウシアと一緒にゼルン王国に行ったよ」
「ゼルン王国? なんでだ?」
「分かんない。ライカは何か聞いてる?」
「ううん」
ゼルン王国に何の用事があったのだろうか? 仕方ない、今度はゼルン王国を目指すとするか。
「取り敢えずメルディン王国は大丈夫そうだし、いったん俺はゼルン王国に向かうよ」
そう言って俺が赤王の背中に跨ろうと二人に背を向けると、ガシッと俺の肩を掴む感触がする。
「ちょっと待って。私達も行く」
「え、私も!?」
ライカが俺の服とカリンの服を引っ張りながらそう告げる。いや、ていうかカリンも聞いてなかったのかよ。
「いや私はまだメルディン王国を守らないと……」
「クロノとカリンで大体倒した。後はクリスたちに任せれば問題はない」
カリンにそう告げるとライカは俺の方に顔を向けてこう告げる。
「どうせ魔神を倒しに行くんでしょ? なら付いていく」
ライカの問いかけに俺は簡単には頷くことはできない。魔神とは俺ですら倒せるかどうか分からない最強の相手だ。
そんな危険な場所にリア様と仲良くしてくれている二人を、いや俺とも仲良くしてくれている二人を連れていくなんて正直に言えば嫌である。
しかし、二人が来てくれれば心強いと言えば心強い。
少し悩んだ後、俺は決断を下す。
「分かった。二人とも、赤王に乗ってくれ」
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