第221話 ドラゴンの狙い

 悠然と荒野の空を飛ぶ巨大な存在が居る。特異点なるものに出会うためドラゴンの一族を魔の手から守るため、その思いでドリューゲンから人間界へとやってきた赤王であった。


 そしてその姿を遠くから眺める者が多数存在する。勇者カリン他ライカを含むSランク冒険者たち、そしてメルディン王国から集まった有数の戦士たちが暴れているわけでもなくただゆったりと王都を目指している赤王の事を眺めている。


「思ったよりでかい」


「だね。ドラゴンってあんなに大きいんだ」


 今までに見たこともない程の巨体。数キロメートルは離れているかというその距離でくっきりと姿を捉えることができる。もしこの巨体が王都へとやってきてしまえば、さぞやパニックに陥ることであろう。


 だが、止めるにしてもその止め方にも問題があった。暴力的に解決してしまうのでは今後のドラゴンと人間との関係性が悪化してしまう恐れがある。最終手段としてはカリンもそうするつもりではあったが、できれば穏便に去ってほしいと考えていたのである。


「おお! カリン殿!」


 馬が大地を蹴る音が聞こえたかと思えば、その直後にカリンを呼ぶ声がする。メルディン王国騎士団団長のハル・ゼオグラードである。


「あっ、ハルさん。間に合ったんですね」


「はい。意外と奴がゆっくり飛んでいるお陰でなんとか」


「それでドラゴンの目的って何かわかりましたか?」


「いえそれが何も分からないのです。目的もなくこちらの世界へと来るには強引すぎたような気もしますし、少なくともなにかはあると思うのですが。しかし言葉が通じるかもわかりませんので」


 この場に居る者達は国王からドラゴンに対する攻撃の指示を受けた者達である。いざとなれば迎え撃つ準備もあるこの状態でドラゴンを止めて目的を探ることができるのではないか、とハルは考えて先に合流したのであった。


「じゃあドラゴンへの問いかけはハルさんに任せますね。私達は戦闘になった際に備えて後ろで控えておきます」


「頼みます。それでは」


 そう言ってハルが再度馬に乗って味方の先頭へと向かう。


「クロノも来るって。さっきコミュニティカードで言われた」


「え? ホントに? ならいったんは安心かな」


 ライカにそう言われ密かにカリンは胸をなでおろす。この戦力だけだと絶対にドラゴンには勝てないと思っていたからだ。ドラゴンとは伝説の存在。一説によれば、一匹の暴れるドラゴンによって人間の国が一つ滅んだという話がある。つまり魔神のような存在という事だ。


 それから悠然と飛翔しているドラゴンがゆっくりとこちらへと近づいてくるのをただただ待つという時間が生じる。ゆっくりと首を回しながら辺りを見ている様子が何かを懸命に探しているようにも思える。


 そうしてドラゴンがこちらへと到着した時、野太い笛の音が鳴り響く。


「ドラゴンよ! この先は我らがメルディン王国の領地である! 何が目的で古の契約を破り人間界へと来たか答えてもらいたい!」


 大声でハルがドラゴンに語り掛ける。近くに聳え立つ山のような大きい存在に対しても物怖じしないその姿は流石一国の騎士団長であると言わざるを得ない。


 その声が届いたのかドラゴンは飛翔をやめて地面へと降り立つ。


『特異点を探している』


 そしてただ一言そんな声がこの場に居る全員の頭の中に響く。


「人間と契約できている点で意思疎通はできるんじゃないかと思っていたけれどまさかこんなにはっきりと意味の分かる言葉をしゃべるだなんて」


「うん、びっくりした」


 誰もが驚きであったことだろう。魔物に分類されているドラゴンが人の言葉を操るなど誰が予想できたか。しかし、それがゆえに人々の頭には一つの疑問が浮かんでいた。特異点、という言葉についてだ。もちろん誰もそんな言葉で表されている存在のことを知らない。ゆえに対処法が分からないのだ。


「すまないが特異点だけでは分からない。できれば特徴を教えてもらえると助かる」


『特異点とは超越した存在の事。黒き衣を身に着け、すべてを破壊する力の持ち主のはずだ』


 それを聞いて誰もが同じ答えを導き出す。黒の執行者がそのすべてに当てはまると。正体を知らない者からすれば気まぐれに表れる天災のようなもの。特異点と言われたのと何ら変わらないくらいに手掛かりがない。しかし、カリンとライカからすればそれはよく知る人物の事を指す。


「クロノの事だね」


 そう呟いた瞬間、カリンの近くに何者かが着地する音が聞こえる。


「俺の事?」


 そう言って現れたのは件の人物であるクロノであった。

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