第220話 クリスからの連絡
ハル・ゼオグラードの報告を受けた王国側では即座に騎士たちが集められ、出陣の用意とともに国民への注意喚起がなされていた。
「陛下、ハルは何と?」
「クリスか。ドラゴンは王都の方角へと飛び立ったらしい。つまりもうそろそろこちらへ来るかもしれないという事だな。ハルは今、馬車でこちらへ向かっている。他国へ一応救援要請はしているが、ドラゴンが来るであろう時間には間に合わない」
「なるほど」
学園がちょうど休日のタイミングでの出来事であり、クリスはいち早く駆け付けて国王から話を聞く。
「カリン殿とライカ殿にはすでに連絡はしてもう向かってもらっている」
なにせ相手はドラゴン。魔神と同じく伝説上の生き物だ。その脅威に対してはいくら勇者と言えども不安にならざるを得ない。
「ガウシアには?」
「ガウシア殿に関してはまだ女王との連絡が取れていないゆえ連絡していない」
他国の王族を保護する形で迎え入れているだけのため、メルディン王がガウシアを動かす権限はない。それもあるが一番はドラゴンによりガウシアを殺されてしまえばゼルン王国との国交に罅が入る懸念があるためできれば頼みたくないのだろう。
そんな国王の考えをすぐに理解したクリスはそれ以上問う事はしない。代わりに彼の頭の中ではとある人物の存在が浮かび上がっていた。
「承知しました。では私なりに戦力を集めておきます」
そう言ってクリスは玉座の間から出ていくのであった。
♢
『ということで大変なんだ。力を貸してくれないか?』
「……いったん待ってくれるか?」
そうしていったんクリスからの通話を保留する。
「本当だったとはな」
「つい先程のことですね。赤い龍がこちらの世界への扉をこじ開けたようです」
ちょうど今、セレンがそのことを報告するために俺の部屋へと来ていたのだ。魔神教団がドリューゲンに居ることは分かっていたが、ドリューゲンへ行くには少なくとも罪を犯す必要があった。しかし、相手から出てくれているのであればもしかすると一使用人である俺でも行けるかもしれない。
問題は龍がこちらに対して悪感情を持っていないか、ということだが。取り敢えず、正面から龍に会えるのであればそれに越したことはない。
「クリス待たせたな。了解した。俺も向かう」
『ありがとう。それじゃあ任せた』
プツンッとクリスからの通話が切れる。それにしてもこういう時にクリスから連絡が入るというのも意外だった。あいつにはまだ俺の正体を見せたことはないはずだ。少なくとも国の緊急時に駆け付けるほどの力を持っているようには振舞っていないと思う。
――――いや、心当たりはあるか。
入学当初に本気のライカと打ち合ったり、その他中々に力を見せていたことを思い出す。うん、気付かなかったことにしようか。どうせ奴はそんなことがなくとも気付いていた。
「さてと、俺は向かわないといけないわけだがその前に一応リア様へ伝えておくか」
そうして俺はコミュニティカードへと手を伸ばし、リア様の連絡先を押す。
『どうしたのクロノ?』
「用事が出来ましたので少しの間付き人の任から離れることをお伝えしたくて」
『なんだそんなこと? わかったわ』
「ありがとうございます。それでは」
『はーい。それじゃ切るわね?』
プツンと通話が切れる。こんなことも少し前の俺なら絶対にリア様から離れるという選択肢を取ることはせずに王都で迎え撃とうとしていたことだろうな。
「セレンは一応王都に残っておいてくれ。魔神教団がドリューゲンに集中しているとはいえ油断はできないからな」
「フフッ、心配性なのは変わらないですね」
「うん?」
「いえ、こっちの話です。それではドラゴンとの戦い、頑張ってきてください。まあ、あなた様なら負けることはないでしょうけど」
そう言ってセレンが俺の部屋から出ていく。まだ戦うと決まったわけじゃないんだがな。
「よし行くか」
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