第222話 ドラゴンと執行者

 前方に飛翔する巨大な赤い生物が見える。あれがドラゴン……。不思議なことに文化祭の時に見たドラゴンと全く同じ見た目をしているような気がする。


 そんなことを考えながら俺が近づいていると、ふと俺の名を呼ぶ声が聞こえる。その方向を見ると馴染みのある顔が並んでいる。カリンとライカである。


「俺の事?」


 そちらへと近寄り、そう尋ねると二人とも目を見開いてこちらを向く。すまないな、ちょっと出来心で驚かしてみたくなったんだ。

 あれ

「クロノ! 来てたんだ!」


「まあさっき来たばっかだけどな。それでどんな状況なんだ?」


「それが……」


 言いづらそうにしていたカリンが俺の耳元に口を近づけてきて詳細を話してくる。……なるほどね、十中八九俺の事だろう。黒き衣を身に着け、すべてを破壊する力の持ち主ってところがまさに黒の執行者の説明みたいになっているし。


 そういえば学園祭の時にも「特異点」と同じことを同じようなドラゴンから言われたな。単なる偶然だろうか?


「どうしよう」


「そりゃあまあ俺があの姿になってこればいいわけだが」


 声を出して話すのであれば出来れば周りにあまり人はいてほしくないところだ。声という情報だけで人を見極める能力の奴が居てもおかしくないからな。まあ今更正体がバレることなんてあまり気にしてないわけだが、それでも信頼していない奴にバレるのは話が違う。


 もしそれでアークライト家の皆様に多大なる迷惑をかけることになってしまえば俺は後悔することになるだろう。


「なら私とライカが黒の執行者の場所を教えるってドラゴンに言って皆のいない方へ誘導するよ。あっ、ちゃんと皆には聞こえない声で言うよ? そこでクロノが出てきてくれれば良いから」


「そうしてくれると助かる」


「オッケー、それじゃライカ行くよ!」


「うん」


 そう言ってカリンとライカがドラゴンの方へと走り寄っていく。その間に俺はカリン達が誘導する方向へと先に向かう。向かいながらちらりと横目でドラゴンの方を見る。


 カリン達がドラゴンの前に来て誘導している。ドラゴンもそれにちゃんとついていっている。作戦は成功したようだ。


 俺がドラゴンと話したい理由、それはもちろんドリューゲンへ行くことについてだ。今、魔神教団がドリューゲンに居ることはセレンからの話で分かっている。だから俺もドリューゲンへ行きたいところだのだが、それを果たして許してもらえるのか。


 そしてそもそもあの赤いドラゴンがなぜこっちの世界に来て俺に会いたがっているのかが分からない。魔神教団が攻め込んできたから怒って人間界へと殴り込みに来たわけじゃなさそうだし。


 そんなことを考えながらカリンに言われた場所へと到着する。そこは周りからは見えなくなるほど深い森の中だ。メルディン王国とは反対側に来たからここなら誰にも見つかる心配はない。


 そして少し待った後、ドラゴンがこちらへ飛んでくるのが見える。相変わらず馬鹿みたいにでかいな。


『本当にここに特異点が居るのか?』


「居るよ。それじゃあ私達は戻るからここで待ってて」


 カリンの声が聞こえる。どうやら到着したようだ。俺は破壊の力を身に纏いながら声の聞こえる方へと歩いていく。


『……本当だったようだな』


 完全に黒の執行者となった俺の姿を見てドラゴンがそう呟く。やはりこの姿のことを特異点と呼んでいたか。


「俺に用があると聞いたが、何の用だ?」


 最初から一直線にそう尋ねる。リア様から離れている以上、さっさと終わらせたいからである。


『少し待て。この姿のままでは声も聴きとりづらくて不便だ』


 そう言うとドラゴンの体が急に光始める。かと思えばその光が徐々に小さくなっていき、やがて俺と同じくらいの大きさまで縮んでいく。そして光がはじけた瞬間、中から赤髪の素っ裸の少女が現れる。


「へ?」


「待たせたな。どうにも人間と会話をするときは小さすぎてこの姿でないと不便だ」


 そうして俺の目の前で赤く大きなドラゴンは赤い髪の少女へと姿を変えたのであった。

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