第208話 幻想
「地面が、無い?」
厳密に言えば遥か下に地面は見える。しかし、そちらへと向かう事が出来ない。代わりに謎の浮遊感がある。空中に漂っている今、水中の時とはまた違った不思議な移動方法で感覚も違う。念じた方向へ動くみたいな感じだな。踏ん張る感覚もないから正直、一番難しいかも。
「ギィッ!!!!」
「ブレイク」
飛び掛かってきた大型の鳥の魔物を消し飛ばす。50ポイントか。結構強いな。他のうようよと飛び交っている魔物たちのポイントもかなり強い。50ポイントでもこの中では下の方である。
これほどの魔物を再現できるなんて。流石に驚いたな。少なくともこいつらよりは作り出している能力者の方が強いだろうことが考えられるからだ。
それからしばらく大型の鳥の魔物達、それから空飛ぶトカゲ達、通称、ワイバーンなどが出現し、狩り続けていく。今までよりも更にポイント効率が上がっており、着実に上がっていった腕に巻いているポインターが20000ポイントを示した時、辺りが急に暗くなってくる。
もう制限時間が来たのだろうか? さっきまでの二部屋と比べて案外早いんだな。そう思い、終了のアナウンスを待つも、いつまでたってもセシル会長の声が聞こえることはない。それどころか未だに空中に漂ったままいつもの部屋移動が無い。これはまさか……。
バッと上を見上げると、そこに居たのは上空を覆うほどの巨体を持った魔物であった。いつもならばでかでかと書かれているポイントもその魔物には書かれていない。
全長が見渡せない程の大きさ。こいつがこの部屋のボスか。
「強そうだな」
試しに今までよりも更に力を込めた一撃をその巨体に打ち込む。しかし、一切効いた様子もなく、その魔物は悠然と上空に漂っている。
未だ全長は見えていないが、少なくとも俺が見たことのある魔物ではない。暴食の魔王が巨大化した時よりもさらに大きなその魔物に興味が湧き、更に力を高める。
「こいつを倒せばどれくらいポイントが入るんだろうな」
部屋を壊さない程度に力を溜めてその魔物へと突っ込んでいく。そして突き出した拳が魔物の腹に突き刺さり、大きな風穴を開ける。しかし、それで倒れることはなく、空いた風穴もみるみるうちに塞がっていった。
「なっ!?」
仮想空間とはいえあまりにも早い回復速度に驚いていると、鋭く尖った巨大な爪がこちらへと迫り来てその場から吹き飛ばされる。吹き飛ばされてもなお立ち向かっていき、それが何度も繰り替えされた後、突然頭の中にこんな言葉が響き渡る。
『……貴様も特異点か』
先程までは見ることが叶わなかった魔物の顔がぬうっとこちらを覗き込んでそう呟くと、段々と視界に霧のようなものがかかっていき、その巨体が嘘のように消えていく。
最後に見えたあの魔物の顔、そして少しだけちらりと見えた巨大な翼にあの巨体。あれはもしかして、ドラゴンか?
そう思っているとシュンという音がしていつの間にか元の無機質な部屋へと戻っていた。
『は~い、お待たせいたしました~。それでは目の前の扉から出てね~。ポイントに応じて景品をあげるからお楽しみに~』
ボーっとしている俺の耳にセシル会長のアナウンスが聞こえてくる。ああ、倒せなかったな。そんな思いを抱きながら俺は扉から出ていくのであった。
♢
「私は5万ポイントくらいね。カリンは?」
「私は6万ポイントだね」
「うっそ、負けた~。最後の魔物にちょっと苦戦してしまったからかしら」
「そうだね~。あの魔物、一万ポイントあったからかやけに強かったしね~」
外ではリア様とカリンが先に出てきて各々の結果を報告しあっていた。二人ともかなりのスコアだな。俺の二倍以上もあるじゃないか。
「あっ、クロノ。何ポイントだった?」
「二万ポイントでした」
「えっ!? ホントに!? やった! こういうのでクロノに初めて勝ったわ」
嬉しそうに飛び跳ねているリア様を見て少し微笑ましい気持ちになる。
「というか最後の敵、倒せたのですね。私でも倒せなかったのですが」
「へえ、クロノでもそんなことがあるんだ。意外ね~」
「まあ、クロノが本気を出したらこの施設ごと壊されちゃうから仕方ないね」
「いや、本気を出しても勝てるか分からなかったな。あの
俺がそう言うと、二人とも不思議そうな顔をする。
「ドラゴン? 最後の敵はブラックワイバーンだったわよ? Sランクの」
「そうだったね。私もそうだったし。似てるから見間違えたんじゃない?」
「え?」
ブラックワイバーン? 俺が見た奴は赤色の身体をしていたし、何よりブラックワイバーンであれほどの巨体が居る筈ない。どういうことだ?
二人の言葉に今度は俺がはてなマークを浮かべることとなる。そんな時、スーッと扉が開いてセシル会長が現れる。
「お疲れ様~。流石にみんな滅茶苦茶点数高いわね。一万ポイントを超えたら一番上の景品から選んでもらうことになるわ。景品交換所はこっちにあるから付いて来て」
「あっ、セシル会長。少し良いですか?」
「な~に? クロノ君」
「あの~、最後に現れた魔物ってドラゴンじゃないんですか?」
俺がそう尋ねるとセシル会長も不思議そうな顔をしてこう告げる。
「最後の魔物はブラックワイバーンよ? ドラゴンなんて伝説の魔物、居るわけないじゃない」
「そ、そうですよね。変な質問をしてしまってすみません」
じゃああれはいったい何だったんだ? その疑問は解消されることなく闇の中へと葬られるのであった。
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