第209話 お化け屋敷
「流石生徒会長ね。まさか景品が屋台食べ放題券だなんて」
「太っ腹だよね〜」
魔物討伐体験を終えた俺達は次の目的地に向かっていた。二人が景品のことについて会話を弾ませている中、俺は先程の謎の魔物について考えていた。
どういう仕組みになっているのだろうか。やはり立体記憶みたいなものか? だが、それなら作っていないものが出てくる訳ない。
考えられるとすれば擬似的に何処かから引っ張ってきている可能性。それならば予定にはない魔物が居ても不思議ではない。それか……。
俺が更に考えを巡らせようと下を向いていると、リア様とカリンの顔がこちらを不思議そうに覗き込んでいた。
「どうしたのクロノ?」
「もう次のとこ、着いたよ」
「え」
二人にそう言われて顔を上げると目の前にある看板には一年Bクラス、お化け屋敷と書かれていた。俺が考え事をしている間に到着してしまっていたらしい。
「すみません、少し考え事をしておりました」
そろそろ切り替えないと。自分の中にある疑問を拭い去り、一先ず目の前の学園祭を堪能することに決める。いつ終わるか分からない学園生活の一大イベントだからな。できれば魔神教団による一時休校までの間にリア様には、いやカリンにも楽しんでもらいたい。
「行きましょうか」
そうして俺達はお化け屋敷へと潜り込む。暗い通路を歩いていくと、俺の腕にしがみつく人物がいた。リア様とカリンである。
「ちょちょっと怖いわね」
「だね~。私、あんまり怖すぎるのは無理なんだよね」
「じゃあ何でここに来たんだよ」
「だってクロノがここが良いって言うから。それに外で待つよりは一緒に入りたいでしょ?」
まあ確かにカリンは昔から怖いものは苦手だったしな。カリンは何となくわかっていたもののまさかリア様も苦手だったことが意外だったな。
そう思ってリア様の方を眺めているとなぜか慌てたような様子でリア様がこう述べる。
「べ、別に私は怖がっているわけじゃないんだからね。ただ、思ってたよりちょ~っと暗いかな~って。それだけなんだから!」
「ハハッ、そうでございますね」
強がりだとは分かっていながらもそれをわざわざ指摘することはない。普段の毅然とした態度のリア様とは違った怖がる様子は可愛らしいものがある。
そうして二人を腕にしがみつかせたままゆっくりと歩を進めていくと、突然ガシッと足を掴むような感覚がする。
「「キャアッ!」」
二人とも叫んでより一層腕をつかむ力が強まる。ふむ、下には誰も居ないな。恐らく能力で遠隔的に触れるのだろう。
「い、いや、別に怖がってないんだからね! ただ少し驚いただけで」
「び、ビックリした~。心臓に悪いよ」
リア様は怖がっているって感じだが、カリンの場合は怖がっているというよりかは純粋に驚いているだけっぽいな。
二人の様子を少し楽しみながら奥へと進んでいく。中はかなり凝っているデザインだな。元々がただの教室とは思えない程に飾り付けされており、お化け屋敷のおどろおどろしさを完璧に演出できている。
ふむ、中々に素晴らし……。
「うわっ!」
教室のデザインの事を考えていると突然、顔にペタリと冷たいものが触れ、つい声が出てしまう。
「何っ? なになに?」
「い、いえ。いきなり顔に何かが当たったものですから」
「ビックリした~。クロノでもそんな声出るんだね~」
「別に俺だって全く驚かないわけじゃないからな」
カリンに言われて少し恥ずかしくなった俺は照れ臭さで早口でそう告げる。完全に油断していたな。
「ね、ねえ。あの机の上に置かれてるのってな、何だと思う? いや、別に怖いわけじゃないんだけど。ちょっと気になって」
「なんでしょうね?」
大きさ的には拳くらい? いやもうちょっと大きいよな? 良い感じの暗さのせいでやけにくっきりと見えるそれがだんだんと大きくなっていく。
そうしてついに全貌が明らかになるであろうその時、恐る恐る近づいていた俺達をあざ笑うかの如くそれが勢いよく回転して、その姿をあらわにする。
「「いやああああああ!!!!」」
それは人間の生首を模したもので、リア様とカリンが勢いよく駆け出していく。
「お待ちください。ただの作り物ですよ」
そう言って俺は二人を追いかけていくのであった。
♢
「はあはあ、あ~、ビックリしたわ」
「すごい走りましたね」
少し涙目になっているリア様とカリンを追いかけ、出口まで駆け抜けてしまった。仕掛け役の人たちはさぞ驚いたことであろう。
「駄目だよ、あれ。犯罪だよ犯罪」
「ただの作り物なんだから犯罪なわけないだろ」
何かおかしなことを口走っているカリンに冷静な突っ込みを入れながら、先程のお化け屋敷の完成度を改めて考える。あれだけ凝っているのだ。恐らくあそこでまだ序の口だったことだろう。
しかし、目の前の二人を見て再度お化け屋敷に乗り込むことを提案する勇気はないため、そのままお化け屋敷の前から去るのであった。
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