第195話 話
「久しぶりだな、皆。長期休暇もあり、一時休校もありで中々会えなかったが、まずは全員が生きて再会できたことを喜ぼう」
他のクラスからは戦場に赴いた者は居ないが、Sクラスからは何人か戦場へと赴いた者は居る。そのほとんどが初体験であっただろうにも拘わらずこうして誰も欠けることなく学校へ来られているのは凄いことだ。流石は学園のトップ層たちである。
「さて、本来ならばあと少しで学園祭が行われるわけだが、今回は魔神教団の脅威がある以上どうなるか分からない。だが、安心しろ。お前達には楽しい思い出作りをさせてやりたいってのは教師全員が思っているから極力開催するつもりではある」
ギーヴァ先生の言葉にクラス中が大盛り上がりとなる。
学園祭、それはメルディン王立学園において闘神祭の次に大きなイベントである。各クラスで様々な出し物が行われ、それを外部からわざわざ見に来る人が居るほど人気が高いイベントでもある。これも闘神祭同様、ここ数年は行えていなかったそうだが、やっていた当時はあまりの人気っぷりに整理券を配らなければならない程だったという。
「今年はどんな出し物があるんだろ? 料理研究会とか凄そうだよね」
「確かに~」
「いやいや、武道部とかやばそうじゃねえか? 今回の殲滅作戦でも活躍してたゴールズさんが主将だぜ?」
「気を抜き過ぎではないか? この隙に魔神教団から攻め入られたらどうする?」
至る所で学園祭を楽しみにする言葉が飛び交う。中には魔神教団を殲滅しないでこんな悠長なことをやってても良いのかという疑念を抱く者もいるようだが。
「おい、お前ら。興奮するのは分かったから一旦静まれー」
興奮冷めやらずといったクラスがギーヴァ先生の一言でスンッと静かになる。
「まだ決まったわけではないというのを踏まえたうえでなんだが、今からこのクラスでの出し物を何にするか決めていきたいと思う。司会はー」
「先生! 私に任せてください」
「おっ、クリス。いつも助かるな。じゃあクリスを中心に決めてくれ」
「はい!」
ギーヴァ先生にそう言われたクリスは前に出ていく。その姿は自信そのものである。
「皆、聞いてくれ。今、私達は魔神教団という脅威にさらされていてさぞ不安だと思う。だが私は思うのだ。黒の執行者が本格的に出現した今、そう易々と奴等が現れることはないと。闘神祭を邪魔された今、私達は今回の学園祭を成功させ、民衆に活力を取り戻す。そして希望の道を切り拓くのだと!」
そこまで言い切るとクリスはダンッと拳を黒板に向かって打ち付ける。大丈夫? 後ろの壁砕けてない?
「今こそ我らが団結力を奴等に見せつけてやろうではないか!」
クリスがそう投げかけた瞬間、クラス中が湧き立つ。ある者は雄たけびを上げ、またある者はクリスに向かって敬礼をしている。なんだこの統一感。やたらSクラスの奴等の意識が高いせいで狂気じみて見えるんだけど。
「め、滅茶苦茶盛り上がってんな。ま、まあ頑張ってくれや」
ギーヴァ先生も引いてんじゃねえか。
「はい!」
クリスの快活な言葉で早速作戦会議が始まるのであった。
♢
「皆の前では私達の活力で圧倒しようとか言っていたけどやはり対策は必要だよね」
「まあそりゃそうだよな」
放課後、クリスに呼び出された俺はリア様から離れる許しを頂いてから教室から離れ、学園の中庭にてクリスと会う。話の内容は学園祭についてではなく主に魔神教団についてだ。
「まあ別に嘘をついたわけじゃないんだけどね。前まで奴等は黒の執行者が死んだものだと思っていたから活発だったわけで、これから活動が抑えられていくのは間違いないしね」
「どこでそんな話を聞いたんだ?」
「うん? 当然ジオン達からだよ」
そう言えばグレイスもセレンと同じくかなりの数の魔神教団の研究所や拠点を潰したって聞いたな。それで尋問なりなんなりしたんだろう。
「それで本題なんだけど、セレンさんから魔神教団の居場所について聞かされてないかい?」
「ああ、その話か。セレンも分からないと言ってたな」
「やっぱりね。グレイスの調査も他国からの情報でもそれらしいものが見つからなかったんだよ。それでセレンさんでも見つからないんだったら、ある場所にあるんじゃないかと思ってね」
「ある場所?」
「禁忌の地、ドリューゲンさ」
「禁忌の地ドリューゲン? どこの事だ?」
「知らなくても無理はない。これは王族にしか知らされないものだしそもそも一般人が行けないようになっているし」
禁忌という名から想像するに危険地帯か何かであろうか? もったいぶるようにニヤリと笑みを浮かべると、こう続ける。
「ドリューゲンは伝説の種族であるドラゴンが棲まう土地だ。ここまで探して見つからないとするならもしかするとそこに居るんじゃないかと思ってね。ただ、人とドラゴンは過去に相互不可侵の契約を結んでいるから調査できないんだけど」
ドラゴンか。おとぎ話の中だけの存在かと思っていた。ていうか想像通りなら明らかに危険な臭いがプンプンする。
「まあ、あくまで推測だからね。まさか調査してきてくれとは言わないさ。ただ一応、情報は共有しておこうと思ってね。それじゃ」
そう言うとクリスはその場から去っていく。ドリューゲン……ね。一応、セレンにも聞いてみるか。
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