第180話 合格者

「お二方ともやり過ぎでございます」


 俺が公爵様とリア様の攻撃を受け止めると、二人とも我に返ったのだろう。ハッとした顔をして辺りを見渡す。観客たちは未だなお、呆然としてこちらを眺めていた。


「すまない、クロノ君。どうやらリアとの打ち合いに熱中しすぎたようだ」


 反省したように頭を掻き、そう言う公爵様。対するリア様も少し分の悪そうな顔をする。


「先程の試合は引き分けです。これ以上やれば会場もそうですがお二人も危ないので」


 そう言って試合を終わらせる。正直、こうやって終わらせてしまうとせっかく白熱していたというのに水を差してしまって周りの士気を下げてしまうためあまりよくはない。ただ、あのまま続けてしまうと周りに被害を与えるのはおろか二人ともが各々の力に呑み込まれて重傷を負ってしまうリスクもある。


 静まり返った志願者たちを見て、少しだけ申し訳ない気持ちに駆られる。


「おいおい、あの攻撃を一人で止めるなんてどうなってんだ」


「誰なんだあいつは? 見たところ志願者でもなさそうだし」


「あんなの止めるなんてただもんじゃねえぞ!」


 俺がリア様へと手を差し伸べようとした時、背後からそんな声が聞こえてくる。その声は次第に伝播していき、いつの間にやら志願者中に行き渡り、先程の静けさが嘘だったかのように大歓声が沸き起こる。


「一体、これは……」


「あの攻撃を一人でそれも何の苦も無く止めたのです。クロノさん。あなたが目立つのは当然の事なのですよ」


 スウッと後ろに控えていた執事のゴードンさんがそう言ってくる。そうして公爵様の下へと何かを話しかける。


「分かった」


 公爵様はゴードンさんの言葉を聞くと、未だ興奮冷めやらぬ志願者たちに向けて告げる。


「これより合格者の発表をする! 今から名を呼ぶ者は前に出たまえ!」


 そうして次々と名前を呼ばれていき、志願者たちが続々と前へと集まる。


「それからジン、ゼール、アスナ!」


「え、嘘だろ。俺、一回戦負けなのに」


「やったね! これで三人とも一緒だよ!」


 あの三人も合格していたか。安心した。ゼールは十分合格圏内に居たから、大丈夫だと思ったがまさかジンまで合格しているとは思わなかった。まあでも大半の相手に楽々勝ち進んでいたガロウに一番食らいついたのがジンだったからな。当然の評価なのかもしれない。


「以上20名が今回の合格者とする」


 これにて総勢100名以上いた志願者の中から20名の合格者たちが選出される。当然ながらレイやガロウもその中に居る。まさにそうそうたるメンバーである。


 そうしてリア様を含む合格者たちが整列したのを確認すると公爵様は一人一人に家紋の入った剣を配る。これが公爵家の兵であるという証になるのだ。


「今日はよく来てくれた。合格した者はこれから私の下でより一層精進して欲しい。そうでない者もこれに腐らず頑張ってほしい。では合格者以外は解散だ」


 公爵様の言葉で選抜試験は幕を下ろすのであった。



 ♢



「ここが今日から君たちに使ってもらう兵舎だ」


 公爵様が連れてきたのは他の兵士たちも住んでいる大きな館だ。大体5棟くらいに皆が住んでいる。


「うわ~、キレ~」


「つくづくアークライト家の力には驚かされるな」


 合格者たちが口々に目の前に聳え立つ大きな施設を評する。今アークライト家で抱えている兵士たちを全員集めてもまだまだ余裕で暮らせるくらいの広さはあるのだ。他の貴族では見たことがないだろう。皆が物珍しそうに眺めている。


「では好きな部屋を選んで過ごすと良い。これからはゴードンに任せた。私は少し用がある」


「承知いたしました」


「頼んだ。リア、私の部屋まで来てくれ。話したいことがある」


「はい!」


 話とは十中八九、リア様が戦場に向かう事を許すか否かについてであろう。しかし、公爵様とほぼ互角の戦いを見せたのだ。きっと許してもらえるだろう。そう思いながら、リア様の後についていくのであった。

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