第175話 試合開始
リア様の記念すべき第一試合は筋骨隆々の男。肩には大きな斧の武具を担いでいる。この大会は学生の大会とは違い、ちゃんとした武具を各々が持ち寄って戦うのだ。流石にリア様の武具は強力過ぎて相手を消し飛ばす危険性があるため、使用は控えているが。
「リア様。ファイトです」
「任せて」
自信満々に前へと向かっていかれる。対する男はリア様の姿を見てフンッと鼻で笑う。
「俺の一回戦の相手はこんなちっちぇえ奴が相手かよ。運良いぜ」
おいあいつ。今すぐにでも捻りつぶしてやろうか。
「うえっ、何て殺気放ってんだよ」
俺がリア様に無礼なことを言いやがった男に向けて殺意を向けていると後ろから声がかかる。
「ジンか。どうかしたか?」
「いやさ、せっかく知り合いなんだし一緒に見ようかと思って」
見ると後ろにはゼールとアスナも居る。
「試験中に馴れ合いは禁物だ」
「お前は出ねえんだから別に良いじゃねえかよ。それでさ、公女様ってどんくらい強いんだ?」
ジンがそう問いかけた瞬間、前方からものすごい衝撃音と共に大きな黒い影が飛んでくる。その黒い影はそのまま俺達の目の前で落下して、その正体を露わにする。
「ザッとこのくらいの敵は一瞬で倒してしまわれるくらいにはお強いさ」
「おいおいおい。こんな大男がこんなとこまで吹き飛ばされんのかよ。お前の主人も結構ヤベーんだな」
「ああ、やべーさ。普通の貴族の子供だったらわざわざこんな試験受けようとも思わないだろうからな」
「凄い凄い! 公女様って強いんだ!」
目の前まで飛ばされた男の気絶している姿を見ながら話を交わす。所詮見せ筋だな、こいつ。
勝利を告げられたリア様が悠然とこちらへと戻ってくる。
「あら? ジンたちも一緒なのね」
「せっかくだし一緒に居ようと思ってな」
「ていうか公女様強くない? こんなの私じゃできっこないんだけど」
「ありがとうアスナ。でもまだまだこんなモンじゃないわよ」
その通り。あの程度ではリア様の力の一端すら知ることはできない。なにせまだ一発しか攻撃を放っていなかったわけだからな。
「それにしてもアークライト家ってのは人気だよな。周り見りゃAランク冒険者がうようよ居るぜ。特にあそこの双剣使いの女なんてSランクにも近いって言われてるくらいだからな」
ジンがそう言って指さす方を見ると、赤い長髪に青い双剣を持つ女性の姿がある。確かにあの人はこの中でも強そうだな。他にも何人かくらいあれくらいの実力者はいるっぽいけど。
「ゼールならまだしも私達、勝ち上れるかな?」
「私も不安よ、アスナ。全然私より実力のある人達がいっぱいいるんだもの」
「そういや公女様。何人くらいとるとか聞いてないのか?」
「聞いてないわ。だけどお父様の事だからそれなりに取ると思うわよ。それこそ足手まといにならない程度の実力を示せれば大丈夫じゃないかしら」
「私もそう思います」
公爵様が今回欲しいのは即戦力になりうる人材だ。それも取るのが5人とかだけならば正直言ってこの試験を開催する意味がないだろうからかなりの数をとる、めぼしい人材が足りなければ更に何回か実施するかだろう。
まあリア様の条件はもっと厳しいものになりそうだが。公爵様自身が行かせたくないからな。
「おっ、次は俺の番だなあ。いっちょ蹴散らしてくるか」
そう言ってジンが肩をゆっくりと回しながら前へ行く。相手によってはジンも余裕で勝てそうな実力は持ってそうなもんだけど。
あー、いや。ちょい厳しそうだな。対戦相手の涼しい顔でジンを待つ金髪の男を見てそう思う。騎士然とした鎧を着こなし、子供くらいはあろう大きさの大剣を持つその威圧感はまさに強者のそれであった。
「あちゃー、ハズレ引いちゃったかー」
「知ってる人?」
「うん。ガロウっていうA級冒険者だよ。それも上位のね」
「初戦からガロウかー。ジン、ついてないね」
俺の思った通り、ジンの対戦相手はかなりの強者らしい。意気揚々と前に行ったジンもどこか顔が強張っている気がする。
「では、始めてください」
ゴードンさんの合図によって絶望の試合が始まるのであった。
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