第174話 試験
俺とリア様が公爵様に直談判をした次の日、公爵家の前には大勢の人が集まっていた。それもただの一般人という訳ではなく、全員が屈強な体を持っている。公爵家の兵として志願した者達である。
まあ試験というからにはしっかりと能力を使う訳で、流石に屋敷で試験をするわけではないのだが、集合場所が屋敷になっていたため、冒険者や腕自慢達がぞろぞろと集まってきているのである。
「意外と多いわね」
「公爵様は民からの支持が多いですしね。給金も他の貴族よりも多いので人気があるのです」
それに今回雇ってもらえればそれからずっと公爵家の兵として雇ってもらえるのだ。彼等にとってはこれほどない労働条件であろう。本来であればアークライト家の使用人という立場になるにも相当運が良くないとなれないものだからな。そう考えればリア様に拾ってもらった俺は奇跡レベルで運が良い。
「あれって公女様じゃない?」
「ホントだ。どうしてここに居るんだろ」
アークライト領で募集するため、リア様のことを知っている者も多い。話しかけには来ないものの遠巻きでそう噂話をする者達もたくさんいる。だれもリア様が受験者側だとは思わないことだろう。
「ゴードン遅いわね」
「そろそろ来るはずですが」
そう話していると、屋敷の中から執事のゴードンさんと公爵様が現れるのが見える。その姿を見た一同はうおおおおおっと雄たけびを上げる。やはり、公爵様は人気なようだな。
「まずはアークライト家の兵として志願してくれてありがとう。早速だが今から試験会場へ移動する。志願者たちは付いてきてくれ」
そうして公爵様が向かうのは公爵家の兵士専用の道場である。広さはそんじょそこらの道場とは似ても似つかないけど。
「入隊試験は基本的にはトーナメント制で行う。ただし、試合の内容によっては光るものがあれば迎え入れることもある。しっかりと実力を発揮してくれ」
道場に到着し、公爵様がそう言うと先程よりも一際大きな歓声が上がる。このルールではたとえ最初に優勝候補と当たって敗北したとしてもチャンスが残されているからであろう。どのみち、実力勝負には変わらないが。
「あれ? 公女様じゃないですか」
道場の中で皆がひしめき合う中、リア様にそう声をかけてくる者が居た。その顔を見て少し驚く。へえ、結構見知った顔も参加しているんだな。
「ほら? ジンですよ、ジン」
「覚えてるわよ。久しぶりね。こんなところで再会するとは思わなかったから驚いたわ」
「こっちの方が驚きですよ。最初見つけた時、まさか公女様なわけないと思ってましたからね」
「他の二人は?」
リア様が問うと、ジンはくいっと自身の後ろを指で差す。その先にはジンのパーティメンバーであるアスナとゼールの姿もあった。ジンが指を差すと二人も気が付いたようでこちらに手を振ってくれる。
「というかあんたも試験受けるのか?」
「私は受けませんよ。既に認められておりますので」
「だよな。あんたが一回戦に当たったら絶望しかねえもんな。ていうか公女様がこの試験を受ける理由も分からねえけどよ」
「私も志願者だからよ。お父様を手助けしたいの」
「な~るほど。じゃあま、お互い頑張りやしょう。俺は二人のとこ戻るんで」
「うん。頑張ろうね」
そう言うとジンはゼールとアスナが待つ方へと走っていく。
「あの三人も受けるのね」
「驚きですね」
てっきり冒険者として名を馳せたいんだ、みたいな縛られたくないタイプだと思っていたから余計に。あの三人もかなりの実力者だし、ここに居る人たちも最低そのくらいの実力はありそうだな。
「後、今回特別ルールとしてこの私を倒すことが出来たものには小隊の隊長を務めることを許す。ただし私に挑むことができる者はトーナメントで1位になった者だけだがな」
ジンと話し終わったとき、ちょうど公爵様のそんな説明が耳に入ってくる。公爵様が試験に出るだと? そんな話一切聞かされてなかったんだが。案の定、周りもそれにどよめきが走っている。
「お父様を倒せば小隊長に……」
「受けられますか?」
「もちろんよ!」
リア様ははっきりとそして自信たっぷりにそう言い切る。
そうして数々の思惑が交差する中でアークライト家主催の選抜試験が開始されるのであった。
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