第173話 公爵への直談判
バードさんの馬車に揺られながら公爵家へと向かう。思えば、長期休暇が明けてからいきなりの帰省という何とも奇妙な状況だが、どうせ学園も一時休校となるのだからこればっかりは仕方がない。
俺が夢に見ていた平穏な学園生活はまだまだ先になりそうだ。
「ではリア様。頑張ってきてください」
「ありがとう、バード」
リア様が既に公爵様へ連絡はしているので、バードさんを含む公爵家の人は皆、事情を知っている。リア様が公爵様の助けになりたいと考えていることも公爵様がそれを頑なに拒み続けていることも。
「クロノもリア様をしっかり支えるんですよ?」
「任せてください」
とはいえ本音で言えば俺もリア様には戦場に行ってほしくないわけだが、所詮付き人の意見である。リア様の付き人であるならばリア様の意思を最優先事項としてそれを実現できるよう最大限に動かなければならない。
なら俺がすることは当然、公爵様の説得を手伝う事だ。公爵様の意見に賛成だからと言ってリア様の意見を疎かにしては付き人として失格だろう。
「お帰りなさいませ、リア様」
「うん、ただいま」
屋敷ですれ違う人たちは皆、リア様が帰ってきた理由を問いただす者はいない。満面の笑みでお帰りと言って通り過ぎていくように見えて、実は曲がり角からこちらを覗き見ている。
「あれでバレていないつもりなのかしら」
「皆、リア様の事が心配なんですよ」
「それは分かっているけれど」
ちなみにカリンはもう前線へと旅立っていった。時を同じくしてジオン達もさっさと向かったらしい。クリスはまだやることがあるため残っているらしいが。
そうしてようやく長いようで短い公爵様の部屋までの道のりを終える。目の前には公爵様の部屋の扉。リア様は一息、深呼吸をされてから意を決したようにその扉へと手を伸ばし、ノックをする。
「お父様。リーンフィリアです。お話したいことがあります」
「入りなさい」
公爵様に促され、扉を開ける。こちらも向こうも緊張しているのか顔はこわばったままである。
「長話になるだろうからそこに座って話そうか」
「はい」
公爵様の机の前にフカフカのソファが4人分置かれており、そこにリア様と公爵様がお座りになる。
「何か淹れましょうか?」
公爵様の付き人兼執事であるゴードンさんが公爵様にそう尋ねる。
「茶を頼む」
「承知しました」
俺も手伝うか、そう思い、ゴードンさんの方へ行こうとすると、ちょっと待てと公爵様に止められる。
「クロノ君にも聞きたいことがあるからそこに座ってくれ。ゴードン、クロノ君の分のお茶も淹れてもらえるか?」
「もう淹れておりますよ」
そう言って用意していたのか3つのカップとお菓子が乗ったお盆を片手で持ちながらこちらへ戻ってくる。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「ありがとうゴードン。じゃあ予想はついているが取り敢えず話を聞こうか。リア」
「はい。電話でもお話した通り、私もお父様についていきたいのです。一戦闘員として」
公爵様に尋ねられたリア様は臆することなく毅然とした態度でそうおっしゃる。
「理由を聞かせてもらえるか?」
「お父様の助けになりたいからです」
「なるほど」
リア様の考えを聞いて公爵様はしばし沈黙なさる。頭の中でリア様の意見をどう咀嚼されるのか。
「クロノ君はどう思う?」
ここで俺に公爵様から話を振られる。
「私の意志はリア様の意志と同じです。リア様の実力であれば魔神教団がいかに強大と言えど問題ないと思っております」
「そうか」
公爵様の中では既に答えは決まっているのだろう。その顔に焦りや不安はない。
「だが私はまだリアの実力を知らない。その状態ではリアを戦闘員として認められない。言いたいことは分かるな?」
「私がお父様に認められれば良いだけのことです」
「そういうことだ。明日、公爵家の兵として志願してきた者の中で試験を行う。それで合格を勝ち取ることが出来たら認めよう」
予想外の言葉に俺もリア様も声を漏らすほどに驚く。まさかリア様のことを溺愛してやまない公爵様からそんな言葉がスッと出てくるなんて思わなかった。
「良いのですか?」
「良いも何もいくら私が言ったところで聞かないだろう? 前みたいに全然あずかり知らないところで勝手に戦い始められるより私の下で戦闘員として雇った方が良いと思ったんだよ」
「ありがとう、お父様!」
そう言ってリア様が全ての緊張感を脱ぎ捨てて公爵様へと抱き着かれる。
「だが、試験で負けたら本当にダメだぞ?」
「分かってるわ。絶対勝ちあがってみせる」
「それとクロノ君は参加しなくても良いからね? 君が強いのは知ってるから」
「承知しました」
既に前に公爵様と一対一で戦ったことのある俺は免除される。
「というよりかは久しぶりに体を動かしたい。クロノ君、手合わせを頼むよ」
「やけに唐突ですね」
「戦場に行くわけだし戦闘の勘をとりもどしておかないといけないからな」
「それもそうですね。承知しました」
こうしてリア様の話は半分承諾された形で終わった。この後、俺と公爵様が手合わせをして容赦なく10-0で俺が下したのはまた別の話である。
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