第172話 休学

「あなた達もなのね」


 リア様と俺は公爵家の兵として志願するため、カリンとライカは招集されたため、休学する旨をレイディ学長に伝えると開口一番にそんな返事がくる。


「あなた達も、ということは他にもいらっしゃるのですね」


「ええ、そうよ。嘆かわしいことにね」


 その反応を見るに、レイディ学長としては不服のようであった。それもそうだろう。彼女からすれば自分の教え子たちが戦場という血生臭い世界へと自ら足を踏み入れていくのだから。


「本当はやめて欲しいんだけどね」


「お父様が心配ですので」


 リア様は過去、公爵様が魔神族との戦いで前線へと駆り出された時も屋敷に滞在することなく一緒に付いていったと聞く。リア様の公爵様を想う気持ちは昔から変わらないのだ。


「カリンさんとライカさんは招集だから仕方ないとして、クロノ君も行くんだね?」


「はい。私はリア様の付き人ですので。主人が向かう場所にはどこであろうと参ずる所存です」


「能力強度だけを見ればあなたは一番心配な筈なんだけれど、合宿の事だったり闘神祭だったり色々底知れない力を持っているものね。どうせ本当の実力は抑えてるんでしょう?」


「ご想像にお任せします」


 とは言ったもののこの調子なら既にレイディ学長には俺が実力を隠していることはバレバレだろうけどな。


「フフッ、食えないやつだな。まあ良い。そもそもお前達が休学する必要は無いぞ?」


「えっ? どうしてですか?」


「この学園の教師たちにも召集命令がかかってな。そもそも学園は一時的に休校するつもりだったんだ。だから心配しなくて良い。いや、この状況になっているだけでむしろ逆に心配になるか。はあ、魔神が封印されてやっと再開できたのにまた休校なのか。嫌になるな。いっその事、黒の執行者が全部片づけてくれれば良いのに」


 レイディ学長の言葉にちくりと胸が痛む。それが出来れば既にやっているだろう。だが相手は未知の力を持つ者。前までは自分の命などくれてやる精神で何でもかんでも特攻することは出来ていたが、守る者ができた今の俺は以前のような無謀さは無い。


 俺の目的はあくまで公爵家をお守りすることであって、命と引き換えに世界を救うことではないのだから安易に突っ込んで万が一にも死ぬわけにはいかないのだ。


「おっとすまない。生徒である君たちに聞かせるべき話題では無かったな。では、そう言う事だから存分に休むと良い」


「ありがとうございます」


 思いのほかスムーズに事が運んだ休学という話。実は公爵様がコミュニティカードで伝えた時に大反対なさっており、いまだ承諾はとれていない状態で行っている。


「後はお父様の許可だけね」


「ですね」


 最後にして最大の強敵である。娘思いの公爵様は付いてくることは拒まないだろうが、公爵様の兵として戦場を駆け巡ることは簡単には許さないだろう。


「はあ、緊張するわね」


「私もですよ。お前が付いていてどうしてそうなるんだとどやされてしまうかもしれません」


 リア様が怒られるという事は付き人である俺も当然のことながら怒られるであろう。俺の場合は怒られるだけで済めばいいのだが。


「二人とも、頑張ってね。先に前線で待ってるよ」


「良いわよね~カリンは。ライカはどうなの?」


「明日Sランク冒険者たちの集まりに行く。それからは分からない。もしかしたらガウシアのとこに行くかも」


 実はガウシアも王女だから、そして世界樹の番人だからという理由で既にゼルン王国に帰還している。


 そうしてこの日はライカ以外は皆、学生寮へと戻っていった。カリンとライカは戦場へ赴くことについてどう思っているのかは分からない。ただ俺はまた皆で学生生活を送りたいなと未来の自分に思いを馳せながら日が沈みかかった道を歩いていくのであった。

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