第171話 行方
「グレイスも本拠地を見つけたようだな」
『そのようですね。申し訳ありません。私がもう少し早くに見つけられれば良かったのですが』
「いや、それに関しては俺の方が悪かった。公爵家での仕事の合間を縫ってでも行くべきだったのかもしれない」
学生寮の一室で俺はセレンとコミュニティカードを通じて話し合っている。主に魔神教団殲滅隊についてだ。世界が討伐隊を組んだとなると更なる被害者が増えるという危険性があるのは勿論、俺が力を発揮しにくくなったということでもある。
『それは仕方がないと思います。クロノ様は強いと言えど相手が何をしてくるか分かりません。そんなに短期間で事が終わるかも怪しいですし』
「まあそうだな」
正直言って、俺自身奴等に勝てるのかは分からない。魔王単体とは戦ったことはあるが、複数の魔王を相手取って戦ったことはないため、もし向こうに魔王と同じ力を持つ奴が4人くらいいたら俺だって勝てるかどうかは怪しい。
カリンやセレンと共に戦えば勝てるかもしれないが、その場合だと二人がどうなるかはわからない。しかも強大化した竜印の世代が加わればどうなるか分からない。魔神教団はいつでも潰せる相手ではないというのが本音なのだ。
「もしかしたら俺も出向くかもしれない。その時はリア様を頼む」
『承知しました』
じゃあまた、と言って俺は通話を切る。
「魔神教団殲滅隊か……」
世界各地の猛者たちが集うのだろう。普段は動かないSランク冒険者たちですら魔神との戦いの際には出向いたのだから。数名亡くなってしまったが。
近い未来に起こりうる世界を巻き込んだ戦いを憂いながらその日は瞼を閉じるのであった。
♢
「公爵様が出向かれるのですか」
男子生徒による魔神教団殲滅隊の喧伝の次の日の教室、リア様から公爵様も魔神教団を討伐するよう国王からの勅令が下ったことを聞かされ驚く。確かに軍務に携わる仕事をしているとはいえまさか大臣自らが出陣なさるとは思わなかった。
「そうなの。昨日通話で聞いて少し不安になったわ」
「そうだったのですね」
だからいつもより少し暗めだったのか。ここは付き人である俺が慰めなければならない。
「大丈夫です。公爵様ならきっと戦果をお上げになって帰還なさいますよ」
「そうだと良いんだけれど」
駄目だ。この程度ではリア様の不安を払拭することはできない。
「だったらリアも来たら良いじゃん」
俺が何とかしてリア様を鼓舞しようとすると横から何やら嫌な提案をしてくる者が居た。カリンである。
「おい馬鹿。リア様をそんな危険なところへやれるか」
「リアなら大丈夫だよ。正直、学生とは思えない程に強くなってるし魔神教団の幹部さえ相手にしなかったら怪我なんてしないと思うよ。それにどっかの過保護さんも付いてくるだろうしね」
「ぐっ、それは一理あるが」
正直なところ、リア様の実力ならエルザードの一人くらいであれば蹴散らせそうではあるとは思っている。それにリア様が行くのであれば俺も行くだろう。カリンの言うことは納得できる。しかし、リア様には圧倒的に実践経験が足りないのだ。
「リア様にはまだそれ相応の実戦経験が足りていない。今、送り出すのは危険だ」
「そうかな? まあ、決めるのはリアだから強くは言わないけどさ」
そう言ってカリンはリア様に委ねる。それを受け取ったリア様の表情は昨日のようにスパッと断った時ほどの自信はなかった。どちらにしようか迷っている、そんな感じの表情であった。
どちらかと言えば行かないでほしい、そう思うが、リア様がご決断したのであればそれもまた真実。あくまで俺はリア様の意志に従うのみである。
俺とカリンが見守る中、リア様は固く閉ざしていた口を遂に開き、こう発言なさる。
「決めた。お父様の軍へ志願を出すわ。クロノ、付いて来てくれるわよね?」
自信たっぷりに告げるリア様のご尊顔を見た時には俺の中にある否定する意欲というものが全て消え去っていた。こうなったリア様は最早誰が何と言おうと曲げることはない。
そうなったときに俺が告げられるのはこの一言のみである。
「承知しました」
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