第170話 殲滅隊

「Sクラスの皆! これに志願しないか?」


 学校が始まる前の朝の時間、教卓の上で一人の男子生徒が声を張り上げて訴えかけている。周りの生徒は何事かと困惑しているようだ。かくいう俺もそのうちの一人で男子生徒が手に持っている紙に目を向ける。


「魔神教団殲滅隊、ね」


 なんとも頭の悪そうな名前だな。そんな名前を付けるなんて絶対怪しい団体か何かだと思い無視していると、男子生徒から発された次の一言でそれが違うことが判明する。


「冒険者ギルドが発行してる奴なんだ。それを一枚貰ってきたんだけどさ、どうだ? 俺達Sクラスならもしかしたらカリン様みたいな救世主になれるかもしれない」


 俺達が次の救世主に! 高らかに声を上げるその男子生徒に徐々に賛成の意を示す生徒たちが集まってくる。しかし、前々から魔神教団という脅威については知っていた筈なのに今更になってどうしてこうも盛り上がっているのだろう?


「リーンフィリア様もどうですか」


「えっ? 私?」


 いつの間にか近くに来ていた賛同者によってリア様が入隊を薦められている。流石に許すわけもなく俺がズイッと二人の間に入る。


「申し訳ありませんが、リア様にそのような行為は控えていただけますか」


「正義を邪魔するのか? リーンフィリア様のように高尚な力をお持ちの方は世界の敵と対峙するうえで重要になってくる」


「それについては一理ありますが、魔神教団なんて大きな団体を相手取るのに何年かかるか分かりません。それにリア様の貴重なお時間を費やすわけにはいかないのですよ」


 本当はそんな時間をかけることなく終わらせようとは思っているが、あくまで一般論としてそう述べる。そう、ただ一般論を述べただけだというのに目の前の少年は不思議な顔を向けてくるのである。


「何だお前知らないのか? 魔神教団の本拠地が分かったんだ。そんな何年もかかるわけがないだろう?」


「本拠地が分かった?」


 なるほど、セレンが入手した情報を冒険者ギルドもとい国家も入手できたという事だな。まあどの部隊がその情報を入手したのかは察しがついているわけだが。最近やたらと活発に動いていたし。


 日々の務めに勤しんでいたため、結局セレンの言うように俺一人で本拠地へ突入する前に知られてしまったようだ。


「とにかく違う方の所へ行ってください。リア様にそんな危険なことはさせられませんので」


「貴様には聞いていない。リーンフィリア様に聞いているのだ」


 いやこれに関してはリア様の身に危害が及ばないようにと公爵様と約束している手前、引くことはできない。そう思っていると、後ろからリア様の声がかかる。


「悪いけど私はまだ学生よ。残念だけど断らせていただくわ」


「ですが!」


「申し訳ありません。これ以上は」


 断るリア様にまだ迫ろうとした男子生徒を押しのけ、完全に拒否を示す。


「ではお気持ちが変われば私達にご連絡ください」


 頑なに拒んだおかげで無事、男子生徒が離れていく。リア様って大人気だからこんなのが増えそうで嫌だな~。


「ライカの下には来なかったのですか?」


「Sランク冒険者に召集がかかってはいたけど無視したから知らない」


「完全にそこでお話されることになっていたんでしょうね」


「そう? なら行ってみる」


 Sランク冒険者も招集がかかっているのか。今回で確実に倒しきる算段のようだな。


「私が聞いた話だとバルキメデスのSランク冒険者は10人とも参加するみたいだね」


「カリンは呼ばれてないの?」


「呼ばれてるし行くつもりだよ。クロノから貰った剣も試したいからね」


 カリンは意気揚々とそう答える。カリンが行くなら大丈夫そうか? でも魔神教団には魔王と同じ能力を使う得体のしれないやつらがいるしな。リア様の護衛をセレンに任せて俺も一応見に行くか。


「おい、お前達! 何してやがる!」


 こうしてSクラスの生徒を勧誘していた男子生徒たちはギーヴァ先生らに連れていかれるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る