第158話 帰宅

「リアさん、クロノさん、カリンさん、それにライカさん。来ていただいてありがとうございました。まあ私はずっと寝てばかりだたんですけどね」


 俺達がゼルン王国から旅立つ日、ヘルミーネを連れてガウシアが見送りに来てくれる。その肩の上には小さなが青い鳥がちょこんととまっている。


「いつでも我に会いに来て良いのだぞ?」


 この喋る小さな青い鳥は世界樹の分身だという。正確に言うと違うらしいが、世界樹の意志は引き継いでいるから大まかに言うとそうらしい。曰く、ガウシアが世界樹から離れれば受ける力の恩恵が少なくなるというのを無くすために、番人の横には世界樹の力を媒介する精霊の様なものが生まれるらしい。


「ぐぬぬぬぬ……殿下の肩の上は私の物だというのに」


 ヘルミーネさん、あんたの体重じゃ肩の上に乗れないでしょうが。せいぜいが肩車だ。


「あ、そうだ。ガウシア。せっかくの長期休暇だし海にでも行こうと思っているの。どう?」


「それは楽しそうですね! 行きます行きます!」


「殿下。陛下に確認を取られてからでないと……」


「ヘルミーネも行くでしょう?」


「行きますとも! な~にが陛下ですか! そんなもんどんと来いです!」


「あらそう? 私なんてどんと来いなんですね~、ヘルミーネ」


 意気揚々と胸を叩いていたヘルミーネの後ろから居る筈のない人の声が聞こえる。ヘルミーネは顔を一変させて後ろを振り返るとそこにはニコニコ顔の女王陛下がいらっしゃった。


「母上。来ていらしたのですね」


「まあね~、あなたのお友達と暫く会えなくなるだろうから護衛も置いて来ちゃったわ」


 相変わらずの軽いテンションでそう言うと、スタスタと俺達の方へと歩いてくる。


「あなた達が居てくれたおかげでゼルン王国も無事で済んだし何より、ガウシアもそれこそヘルミーネも良い方向に変わってくれたわ。ありがとう」


 後ろでギクッとした顔をした人がいるな。ヘルミーネさんや、間が悪かったな。


「こちらこそ色々大目に見て頂いてありがとうございます」


「リアの言うとおりだね。本来なら無断で世界樹の下に行くなんて罰されてもおかしくないし」


「まあ悪意じゃなかったからね。そんなことで目くじらを立てるような人にはなりたくないわ。だからヘルミーネもそんなところで縮こまってないので良いのよ」


「ふぁ、は、はい!」


 突然、自身に話題を振られてヘルミーネが焦ったような返事をする。それを見て女王陛下は悪戯な笑みを浮かべる。確信犯である。


「可愛い」


「な、なにをする。止めるんだ!」


 気付けば横に居たライカがガウシアの横に行き、肩に乗っかっている世界樹の精霊の頭を撫でている。知らなかったのだが、ライカは小動物が好きだったらしく、世界樹の精霊を見つけた後も常に撫でまわしていた。


 最初は嫌がっていた精霊もいつの間にか口では嫌がりつつもその場から離れないという何ともよくわからない行動に出ていた。


 思えば最初に見つけたのはライカだったな。


「そうそう、そういえば海に行くって話だったわね。良いわよ。行ってきなさいガウシア。もう体調を崩す心配はないもの。まあ私が許してなくてもあなたは行っていたでしょうけどね」


「そんなことないですよ、母上」


「フフッ、どうだか」


「じゃああとでコミュニティカードでみんなで話しましょ。それじゃあまたね」


 そうして俺達は森の外で待っていたバードさんの馬車へと乗り込み、アークライト領へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る