第157話 苦しみの理由
「これは我の責任だからな。ガウシアには本当に申し訳ないと思っている。言い訳みたいに聞こえるかもしれないがそこは許してくれ。これが真実だから」
そう言って世界樹は何があってガウシアを苦しめるに至ったのかを話し始める。
「まずは世界樹の番人について話そう。世界樹の番人とはこの世界が危機に陥った時、世界の均衡を保つために我の力を全て与え、謂わば代弁者の様な役割を果たしてもらう者のことを言う」
「世界の危機って?」
世界樹の言葉にカリンが問う。大方は分かっているだろうが、聞いておきたいのだろう。
「無論、魔神の事だ」
それから一呼吸を置いてから話を続ける。
「話を戻す。世界樹の番人というのは先程言った通りなのだが、誰でも良いという訳ではない。当然、我の力を全て受けられるほどの器でないと体が破裂してしまう。ただ、魔神という大きな負の存在が現れる様にこの世界には大きな正の存在も生まれる。その一人がガウシアだったという訳だ」
「でもガウシアはあなたの力に耐えられなくて苦しんでいたんじゃないの?」
リア様の言葉に世界樹の番人も重々しく首を縦に振る。
「本来であれば魔神の復活はもう少し遅かった。だから幼少期から地道に力を与え続けようと思っていたのだが、ある日を境に急に魔神の復活が早まったのだ。それで焦ってしまって最初のガウシアとの迎合の際に力を全て渡しきってしまった」
魔神の復活が早まっただと? そもそも魔神が復活するのは当たり前の話であったというのも驚きだが、そんなことよりも一日を境に運命が変わるなんてことがあるというのが気になる。
「私ではダメだったのでしょうか?」
「ゼクシール。君も強いことには強いが、やはり難しかった。ガウシアは器があったからこそ体調が悪くなっただけで済んだが君にしてしまうと恐らく力で押しつぶされて死んでしまっただろうね」
「でもそれってゼルン王家じゃなくても良いんじゃない? 例えば、ほら。私だって結構強いし」
「確かに君は強い。でも別の能力が既に発現している者に我の能力を渡すとこれまた破壊されてしまう。古の時代に我と契約を交わしたゼルン王家だからこそ『大樹』という能力を引き継げるのだ」
カリンは既に「勇者」という能力をその身に宿しているから出来ないのだという。能力同士が喧嘩を引き起こすからなのかそれは分からないが、取り敢えず容量が足りないという事なのだろう。
「つまり焦って力を与えすぎてしまったからガウシアはこうして苦しんでしまったと、そう言う訳ですね」
「その通りだ、ゼクシール。だが安心してくれ。この数分間、力を使ったお陰でガウシアの身体は既に我の力に順応している。もう体調を崩すこともない」
世界樹がそう言うとガウシアの身体が白く光りだす。それはいつぞやに見たガウシアの白い大樹の力に似ているようで強さが格段に違う。これが世界樹の力、これがガウシアの真の力。
「では我はガウシアの身体から抜ける。さらばだ」
光が全てガウシアに吸収されたかと思うと、またもやガウシアの雰囲気がガラリと変わる。
「行ってしまわれましたか」
寂しそうに呟く。ガウシアにとってはご先祖様のような近いようで遠い存在だったのだろう。また物言わぬ大樹へと戻ってしまったことが少し寂しいのだろうか。
「何はともあれ、皆様ご心配をおかけしました。これからは大丈夫らしいので……」
「殿下ー!」
ガウシアが言い切る前にヘルミーネが飛びついてそれを遮る。ヘルミーネの突撃にガウシアは少し驚くもすぐに優しい顔へと戻り、ヘルミーネの頭の上にそっと手を置く。
「あなたにもご迷惑をおかけしましたね」
「私などどうでも良いのです! 殿下が無事であれば私なんて!」
近衛隊隊長だみたいなことを言っていた手前、今まで我慢していたのだろう。堰を切ったように号泣しながらガウシアへとしがみつく。
「たくっ、情けないわよ。ヘルミーネ。将来、この子の近衛隊隊長になるのにそんなんじゃ思いやられるわよ」
呆れたようにしかしその内容はヘルミーネを近衛隊隊長に据えるつもりだともとれるような内容だ。不器用な人だな。
そんな様子を微笑ましく眺めていると、ちょんちょんと何かが裾を引っ張る感触を覚える。
「クロノ」
「何だライカか。どうした?」
呼びかけに答え、パッと振り返るとそこには青い鳥を掌の上にのせるライカの姿があった。
「この子、世界樹なんだって」
「はあ?」
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