第154話 世界樹
『目覚めよ、我が番人よ』
黒い何かが体に纏わりついていくような感覚が襲う。必死にもがけばもがくほどに束縛はどんどん強くなっていく。やがてすべてが呑み込まれた時、ガウシアの意識が覚醒する。
「嫌っ!」
反射的に声が出るも、それが夢であったことに気が付き、ガウシアはホッと胸を撫でおろす。
「夢でしたか……最近多くなりましたね」
自身の中にある世界樹の力が日に日に増していき、何故かこの日は特に体中が燃えるような感覚に襲われていた。
「痛い」
締め付けるような痛みがガウシアの頭を襲う。夢の後遺症のようなものだろうと判断したガウシアはふと自身の体に違和感を覚える。
「なんだか力が抜けていっているような感覚がします」
一気にごそっと消えるのではなく徐々に体の中から抜けていっているような、そんな脱力感がガウシアを襲う。ただ、ガウシアが疑問なのはそれが寧ろ体調を良好なものへと導いていることにあった。
『やっと起きたか。我が番人よ』
「だ、誰ですか!?」
突然聞こえてきた声に反応してガウシアは部屋を見渡すも誰の姿も見えない。それなのに声は聞こえる。そんな現象にガウシアは困惑せざるを得なかった。
『誰とは失礼な奴だな。我は君たちの身内みたいなものなのに』
「身内みたいなもの?」
『そうさ。世界樹って言えば分かるだろう?』
「世界樹様なのですか!?」
頭に響き渡る声の主がまさかの存在でガウシアは驚く。だがそれと同時になぜ今になって語りかけてきたのかと疑問に思う。
「どうして今、話しかけてこられたのでしょうか」
『なんだい? 我に話しかけられるのが嫌か?』
「いえ、そういうわけではないのですが、単純に疑問に思いまして」
『別に我はいつも語り掛けていたぞ? ただ、今まではまだ力に順応していなくて反応できなかったようだが』
その世界樹の言葉にふと夢の事を思い出す。度々謎の声が聞こえる、不思議な夢。それは胸元に王家の印が刻まれた後のことからであった。そう聞くと確かに夢の中で耳にした声と現在話しかけられている声が同じであるなとガウシアは今更になって気が付く。
また、世界樹の言葉からあることにも気が付く。
「ということは私は世界樹様の力に順応できたという事なのでしょうか?」
もしそうであればこれまでのように体の不調に悩まされることはない。しかし、そんな期待は世界樹の次の言葉によって否定されることとなる。
『いや、正確にはそうではない。我の力が何者かに吸収されたことによって君が受けられる力の上限にまで下がったようだ』
「そうだったのですか」
『まあまあそう落ち込むでない。元々、君には我の番人として最初から過大な力を与えてしまっていた。元々はあんなにも早く魔神が復活するとは思わなかったから少し焦ってしまってね』
「焦っていた……ですか。私の母上が番人としていらっしゃったのであまり焦る必要は無いと思うのですが」
『ああ、言っていなかったね。世界樹の番人っていうのはこの国の王族の中でも我の力全てに耐えられるくらいの器じゃないとダメなのさ。もし君の母親に君にあげた力と同じだけの力をあげていたら体調を崩す程度では済まないよ』
まあ一回失敗しちゃったんだけどね、と世界樹は悲しげに付け加える。昔に何かあったのだろうか、とガウシアも疑問に思うが、触れてはいけない雰囲気であったためそっとしておく。
『じゃあ早速番人としての仕事をしてもらうよ』
「えっ、ですが私はまだ番人として未成熟なのでは?」
『我の声に反応できるくらいになれば大丈夫さ。我が君の体を操って順応できるようにしてあげるからね。準備は良い?』
急な問いかけにガウシアは戸惑いながらもこれで体調が良くなるのならばと思い、首を縦に振る。
『よし、じゃあ行くよ!』
「はい!」
世界樹の言葉と同時にガウシアの全身が神々しい光に包まれる。
「よし、うまくいったね」
光が消えた後、ガウシアは、いや、ガウシアの体を操っている世界樹はそう呟いて部屋を出ていくのであった。
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