第153話 強欲
「知りたい知りたい。こんなに巨大な木がどうして生まれたのか知りたい」
一人の怪しげな雰囲気を漂わせている少女が世界樹に触れ、はしゃいでいる。その横ではあきれ顔のアンディ・ベルトーニと楽しげにその様子を眺めている魔神教団教祖であるレヴィが立っていた。
「どうしてこんな変な奴を連れてきたのさ」
「そう言うな。この子は枢機卿の中で妾が一番信頼している子だぞ?」
「そんな筈がないだろう。こいつは僕よりも弱い」
「ふん、少し力を得たらすぐに調子に乗りおって。まあ良い。一先ずは仕事を片付けるとしよう」
そう言うとレヴィは世界樹に向かって手を伸ばす。その手には黒い水晶が握られている。
「本来であればヒルトンから能力強度を分離できていればよかったのだが仕方あるまい。二人とも、世界樹から力を分離させている間、妾は無防備となる。分かっているな?」
「当然さ。敵が来たら排除すればいいんだろう? 余裕だよ」
「知りたい知りたい、敵が絶望するときの顔ッ♪」
「うえっ、やっぱり僕はこいつが苦手だな」
恍惚な表情を浮かべる強欲の魔王の子、グリーディ・グレイスは明らかに自身に対して嫌悪感を示すアンディに見向きもしない。それがアンディの嫌悪をより一層加速させる。
「
レヴィは黒い水晶を握りしめながら世界樹に手を付け、能力を使う。
「ぐうっ、くう。やはり世界樹だけあって手強い」
世界樹に触れたところからレヴィの体へと黒い雷となって力が流れ込んでくる。その力は決して従順なものではない。内側から体内を破壊しようとしているのがレヴィにも分かった。
「おいおい、大丈夫かよ」
アンディが声をかけるもレヴィは集中しているため、無視する。
「はいはい、無視ですか」
声をかけるのをあきらめたアンディの横でグリーディの耳がピクリと動く。
「誰か来る」
その言葉と同時位に5人の人影が二人の目の前に現れる。
「そこの者! 何をしている!」
♢
「陛下! 護衛の者はお呼びにならないのですか!?」
「呼ばないわよ。ここにはカリンさんもライカさんも居るのよ? これ以上の護衛は必要無いわ。それよりも今はあの爆発音がなにか確認しにいかないと」
重そうなドレスを着ているのにもかかわらず、前を走る女王の背を見て思う。この人が居たおかげでゼルン王国は五つの光の内の一つになった。その衰えを感じさせない動きだ。
段々と神々しい光を放つ世界樹の姿が見えてくる。その木の根元には怪しげな連中とアンディの姿があった。
「そこの者! 何をしている!」
女王陛下が3人に向かって怒鳴る。普段は砕けた感じの口調でも、こういう時にその貫禄が垣間見える辺りやはり一国の女王なのだと思う。
アンディと水色の髪の毛の少女がこちらを向くが、赤髪の女性だけ世界樹に手をかざしこちらに一切の関心を見せない。
「何をしているって話しかけたらダメじゃない? こういうのって不意打ちした方が効果的なんだよ?」
「どうせ気付いていたでしょう? 変わらないわよ」
偉そうに物を告げるアンディの言葉を女王陛下は鼻で笑い飛ばす。こいつ、いつからこんなに尊大な態度を取るようになったんだ? 俺がエルザードに居た時はまだ謙虚さがあったものだが。
「雷姫にカリン、クロノまで居るのか。ハハハッ! 女王よ、運が良かったな。こんなにも質のいい護衛が偶然にも集結していて。まあ、唯一の不運は僕がここに居ることなんだけどね」
アンディがそう言い切ると同時に周囲の景色がガラリと姿を変える。アンディの能力『聖域』であろう。
「クロノ」
「分かっている。ブレイク」
カリンに促されたまま力を使うとアンディの能力はいとも容易くその効力を失い、元居た世界樹の下へと景色が変わる。
「ちっ、転移させる暇も無いか」
アンディの能力が覚醒して転移の力が発現したとセレンが言っていたため、展開された直後に破壊しておいた。ありがたい。これを知らなければ散り散りにされていたところだったろう。姿は見えないが、確実に近くに居るであろうセレンに心の中で感謝を告げる。
「へえ、お前の能力面白い」
先程まで笑みを浮かべていた水色の少女がそう呟いた瞬間、纏う雰囲気がガラリと変わる。背筋の凍るような威圧感を放ちながら俺に向かって掌を向ける。
「
少女がそう呟くも俺の体に異変は無い。ああ、そうか。この力は多分強欲の魔王の力だ。そしてその能力の効果は……。
「ブレイク」
強欲の魔王の力、それは相手が使った技をコピーする能力である。少女が拳を振るうと先程の俺の攻撃と同じ力がこちらに向かって飛んでくる。
「ブレイク」
それを俺も同じ攻撃をして相殺する。
「えっ? 今あの子クロノの技、使わなかった?」
「あいつはそういう能力なんです」
強欲の魔王の力、『
方や転移使い、方や能力コピー、どちらも気が抜けない相手である。
「面倒な相手だな」
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