第151話 病気の正体
ヘルミーネから指示された場所、そこは王城から歩いてすぐのとある飯屋の前であった。取り敢えず中で食べながら話そうという事で俺達はヘルミーネと共に中へと入る。
「まずは来てくれてありがとう。通話でも言ったように今日は殿下の病気について少し話したくて呼んだんだ」
座席につくと開口一番にヘルミーネはそう告げる。
「詳しいことは分からないが、今回は私ですら面会を拒否されるほどの病状らしい。ああ、この場合、病状と言えばいいのか分からないな」
「どうして? ガウシアのは病気ではないの?」
「ああ。面会の時に殿下から少し聞かされたのだが、殿下のあれは病気ではなく
「えっ!?」
その言葉にリア様だけが驚く。
「まあそんな気はしたね」
「うん」
カリンとライカがそう会話を交わすと、リア様がまたもや驚いたような顔を向ける。
「あれ? 二人ともわかっていたの?」
「まあ私はそういうの見慣れてるから」
「私も。魔物がよく使う」
そう言われたリア様の瞳が今度はこちらを向く。その目はどこか懇願するような眼差しであった。
「クロノはどうなの?」
これは恐らく俺も勘づいていた、と言ってしまうとリア様が一人だけ鈍感な奴ということになってしまいかねない。ならば俺の答えは一つ。
「私は全然気が付かなかったですね」
「本当? その割にはさっきあんまり驚いていなかったみたいだけれど?」
残念ながら俺の演技は一瞬で看破されて疑いの眼差しを向けられる。でもはっきり呪いと分かっていたわけじゃなく、面会した時に初めて実は呪いなんじゃないかってぼんやり思っただけだから気が付かなかったってのは嘘ではないんだけど。
「呪いなら呪いを払う能力を持つ者を呼べば良い。冒険者に一人心当たりがある」
ライカがそう言うとヘルミーネは首を横に振る。
「残念ながら殿下の呪いはそんなすぐに払えるようなやわな呪いじゃないんだ。呪いをかけた相手が相手だからな」
「誰なの?」
「ここからは飽くまで私の憶測なのだが、呪いをかけた相手は世界樹だ」
世界樹だと? 流石にこれには俺も驚く。
「世界樹が? どうして?」
ここでライカが疑問を口にする。ここに居る誰もが思ったことだろう。どうして民衆を守るはずの世界樹が呪いをかけたということになるのかについて。
「殿下から呪いと聞いて思い当たる話があったからだ」
出されているお冷に口を付けてからヘルミーネは続ける。
「王家は代々ある一定の年齢になると世界樹の下へ参拝する。普通なら参拝をすると体のどこかに王家の印が刻まれるだけらしいんだが、世界樹に気に入られてしまった者は印とともに『世界樹の呪い』を受けると。そんな悲劇の王女の話がゼルン王国にあるんだ」
「悲劇の王女……」
その言葉だけでその人生が波乱万丈であることが容易に想像できる。そんな呪いがガウシアにもかかっているという事なのか。
「ガウシアはそのことを知っていたの?」
「殿下から聞いたのは病気ではなく呪いということだけだったから何とも言えないけど、ある程度は把握していらっしゃると思う。あとそれと世界樹の呪いには特徴がある。これで私は確信したんだが」
「どんな特徴があるの?」
「世界樹の呪いは呪いを受けた者の力を格段に引き上げる効果があるというのと距離が近ければ近い程強力な呪いを受けるというものよ。殿下は本来の王家の能力である『大樹』の力とはまた別の力を使っていらっしゃる。みんなも見たことあるでしょ? 神聖樹」
選考試合の時に見た気がする。従来用いていたガウシアの大樹ではなく明らかに神々しい光を放っていたあの能力のことだ。
「あの能力は元々、王家では殿下だけが使っていた能力なの。後はもう一つの特徴についてね。近ければ近い程呪いが強まる特徴。これは言わなくても分かるでしょ?」
ヘルミーネが言っているのは間違いなく、アルラウネ学院に入学するのではなくメルディン王立学園に入学したことについてだろう。確かに俺もおかしいなとは思った。黒の執行者を探すためだけにわざわざこんな遠いところまで来るか、と。
「まあ遠い所だったらどこでも良いでしょうから黒の執行者目当てでメルディン王立学園をお選びになったのでしょうけれどね」
そう言いながらなぜか一瞬だけヘルミーネの目から憎悪が籠った光が発される。
「じゃあどうしてガウシアはゼルン王国に戻ろうと思ったのかしら?」
「確かにリアの言うとおりだね。世界樹に近付いたら呪いが強まるって知っていてどうしてゼルン王国に戻ってきたんだろ? 別に寮で過ごしていても良かったんじゃないかな?」
「それは私にもよくわからない」
考えられることとすれば帰ってこなければならない理由があったからくらいだが、俺はガウシアじゃないから何とも言えないな。単に呪いが強くなっても故郷に帰りたかっただけかもしれないし。
「それでだ。ここからが本題なのだが、今日、世界樹に侵入しようと思っているんだ」
「はい?」
ヘルミーネの言葉に皆が耳を疑う。だってそうだろう? 王家以外立ち入ることが禁止されている世界樹に無断で入ったらどうなるか分かったもんじゃない。
「なにをそんなに不思議そうにしているんだ? お前達も来るんだぞ?」
本当に疑問に思っている、と言わんばかりの顔でヘルミーネはそう告げるのであった。
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