第150話 急変
「セレン、来てくれたか」
日が完全に沈み切った夜更け、闇の森の中からセレンが現れる。
「はい。あなた様のご指示であればなんなりと」
いつからここまで従順になったのだろうか。本人に理由は聞いてみたものの詳細には教えられないという。ただ逆らえない存在だからとは言われた。
「すまないな。またこんなに夜遅くに呼び出して。流石にお前を王国内に白昼堂々呼び出すわけにはいかないからな」
世間的にはカリン以外の竜印の世代は皆、犯罪者という扱いになっている。セレンも闘神祭襲撃などの実行では関わっていないものの全く無実であるという証拠がないため、こうしてグレイスで匿うこととなった。
「それで魔神教団がゼルン王国への動きを見せたというのは本当か?」
「はい。恐らく明日頃にはここを襲撃すると思われます」
「目的はなんだ?」
「壊滅させた支部の資料によりますと、足りると思われていた能力強度が足りなくなってしまったため世界樹の力を奪う、とのことです」
足りると思われていた? 恐らくはヒルトン様を攫ったことで能力強度は十分だと踏んでいたが、実際にはあることを達成するためにそれでは足りなかった、という事なのだろう。
「世界樹が目的か」
ゼルン王国中心部、四方を巨大な壁で仕切られ、ゼルン家以外の立ち入りを禁止しているという場所に世界樹は生えている。そこに強行突破をしようという魂胆なのだろう。
「あとクロノ様にお伝えしたいことがあります」
「なんだ?」
「実はアンディの『聖域』という能力。あれが魔神の血と呼ばれる液体を飲んだことで覚醒してしまいまして、自身の思うままにできる異空間を形成する能力の他に自身の異空間を任意の土地へとつなぐことができるという能力が発現しました。それを用いて先のヒルトン・ドゥ・グランミリタールの大結晶を盗んだと考えられます」
任意の土地へつなぐことができる。つまりは転移することが可能になったという訳か。
「なら世界樹へ直接つなぐ危険性もあるってことか?」
「その可能性が高いです。ただ、問題はどのようにして世界樹から力を奪うのかという点にあります」
「能力強度を集めるとか訳の分からんことをやっている連中だ。何かしらの能力を持っているのだろう」
一度だけ見たことがある。取り逃がしてしまったが魔王の中に力を奪い取る奴が一人。もし生きているのなら間違いなくそいつの仕業だろう。
「じゃあ俺達も世界樹へ入る必要があるな。ただ問題はゼルン王家以外の者は入れないことにあるが」
それに魔神教団が襲撃してくるからと言っても信じてもらえる保証はない。
「一度女王陛下に伝えてみてダメでしたら最悪忍び込んでしまいましょう。世界樹の力を失えばゼルン王国は森と共に消滅しますし罪に問われることはないでしょう」
「おいおい……まあ現状はそれしか策は無いか。分かった。また何か情報が入ったら教えてくれ。今はいったん解散だ」
「御意」
それだけ言うとセレンは闇の中に姿を消す。そういえばセレンにはかなり動いてもらっているが、いつ寝てるんだろう。
「まあそれは俺にも言えたことか」
魔神族との戦いの日々ではぐっすり寝た記憶がほとんどない。常に敵からの襲撃に気を張っていたからである。その癖もあってかこうして俺一人が夜に活動していることが多い。
「明日か。よりにもよって旅行最終日と重なるとは」
ツイているのかツイていないのか。今に始まった事ではないが。
♢
「えっ、ガウシアに面会できない?」
『ああ。詳しくは教えてもらえなかったのだが、急に殿下の体調が悪化し始めたらしくて』
次の日の朝、再度ガウシアの下へお見舞いに行こうとしていると、ヘルミーネからリア様のコミュニティカードにそう連絡が入る。マジか。これじゃガウシアの見舞いついでに女王陛下に直談判もできなくなってしまったじゃないか。
「それって私達が昨日押しかけたからなんじゃ」
『いやそれはない。殿下の病はそういう類のものではないのだ。そうだ』
そこから数瞬だけ間があった後にヘルミーネがこう告げる。
『今からとある場所に来てほしい。そこで殿下の病について話す』
それだけ告げるとコミュニティカードの通話がプツリと途切れるのであった。
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