第10章

第135話 首脳会談

 とある一室にて8人の男女が集まっている。各々が豪華な服装を身に纏い、その傍らには護衛がそれぞれ二人ずつ付いている。


 彼ら彼女らはこの世界を構成する八大国の各国の首脳たちであった。


「此度の首脳会談に緊急だというのにもかかわらずご足労いただき、感謝する。今回はこの会議に招集したグランミリタール帝国の皇帝である私ハミルトン・ドゥ・グランミリタールが議長を務めさせていただく。よろしく頼む。皆、知っている顔であろうから自己紹介は省かせてもらう。それで早速本題に入りたいのだが……」


 そこまで言うと、ハミルトンは各国の首脳達の顔を窺うようにズラッと見やる。


「各国での魔神教団の侵攻による被害を知りたい。まずは闘神祭の開催国であったメルディンに問おう。ガイアス殿、被害は幾程であったか?」


「我が国はカリン殿やうちのクリスのお陰で少々の被害に収めることができた。とはいえ、兵士や闘神祭に来ていた観客らには犠牲者も出てしまったが」


 ガイアスは黒の執行者やジオンが戦っていたことなど知らない。クリスによって伏せられたためである。そのため、功績は飽くまでクリスとカリンだけとなっていた。


「ふむ、なるほど。メルディンの被害状況がそれだけで済んだのは不幸中の幸いだな。他の国は……」


 そうしてハミルトンの司会によって次々と各国の被害状況が述べられていく。どの国も特に被害はなく、いつも通りであったと述べていき、遂に語っていないのはグランミリタール帝国のみとなる。


「では此度の侵攻で最も被害が大きかったであろう我が国から報告させていただく。正直言って現状は最悪だ。我が国の黄金騎士団団長を含む数十名の騎士たちは討ち死にし、大結晶となって未だ眠りについている我が妻、ヒルトン・ドゥ・グランミリタールは結晶ごと行方を眩ませた」


 重々しく打ち明けるハミルトンの言葉に一同が騒然となる。コミュニティカードや各国への伝達などで聞く限りではかなりひどい攻撃を受けたと聞かされていた彼らもまさかこれほどまでに酷いとは思っていなかったのである。


「そ、そんな! 魔神を封印した英雄であらせられるヒルトン殿までもが!」


「しかし、ハミルトン殿。あれほど大きな結晶を運べる者などこの世におりますかい? 儂はそれだけが引っかかっておるのだが」


 黒の執行者によって瀕死状態にまで追い込まれた魔神を封印した際にヒルトンの体はその過度な能力の代償に大きな結晶によって覆われたのだ。黒の執行者はボロボロの姿のままそれだけを帝国の兵の下へ伝えると、あの大きな結晶を置き姿をくらましたと言われている。


 そしてそこからその大きな結晶を城の中へと運ぶのにそれまた数百人規模の人材が必要だったと聞いていた老王はハミルトンに対してそう問いかける。


 しかし、ハミルトンも運び出せた理由など思いつきもしなかった。なにせ……


「私が駆け付けた際には既にもぬけの殻であった。それこそ瞬間移動したとしか思えぬほど、妙に早かったのだ」


「なんと! 帝国が感知できない程の能力を使えるのであれば我々の国など一夜で落とされてしまうやもしれぬ」


「どうするか。我が国はメルディンやゼルン、グランミリタール、それにバルキメデスほどの戦力はないというのに」


 ハミルトンの言葉にその場にいた王たちが口々に不安を漏らす。五つの光として数えられているグランミリタール帝国やゼルン王国、それに勇者が存在するメルディン王国、さらには冒険者の楽園として冒険者産業が盛んで最もSランク冒険者の在籍が多いバルキメデスならば対抗策もありそうなものだが、それ以外の国ではそこまで人材が揃っている国は少ない。


 そのため、自分たちよりも戦力がはるかに上であるグランミリタール帝国が人員が少し闘神祭に行ってはいたものの、かなりの被害を受けたという話に他の王達が不安になるのは当然の話であった。


「これからは魔神教団を世界に対する敵として各国で連携を取り合う必要性があるわね。取り敢えず魔神教団の出没情報が入ったら必ず各国にコミュニティカードで知らせるようにしましょう」


「ゼクシール殿の言う通りですな。魔神教団は魔神を復活させんとする悪しき集団である。かつての魔神族との戦いの時のようにまた我々が力を合わせれば確実に阻止できる。まずは手始めにグランミリタール帝国の復興の手助けを我らがバルキメデスからしようと思うが如何か?」


「国民の心労もあって中々に復興に時間がかかりそうゆえ、そうしてもらえるとありがたい、カイザー殿」


「決まりだな」


 それからしばらく、今後の魔神教団への対策やらはたまた侵攻の際に備えた物資についてなど多岐に及んだ話し合いまで王たちの会議は続いたのであった。

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