第123話 居場所
「くそっ!」
俺はリア様を連れ去られた悔しさで近くの壁を殴る。リア様を攫われてしまった自分の不甲斐なさに腹立たしささえも覚える。これで二度目だぞ! いい加減学習したらどうなんだ俺は!
既にこの近くに奴等の気配はない。それどころか丁寧にもコミュニティカードのペアリングも解除されてしまっている。本来ならばリア様本人が切らなければ不可能なはずだが、操られていることを考えればそれも可能なのだろう。どこまでも陰湿な奴だ。
「場所が分からないなら聞けばいい」
ちょうどステージ上で魔神教団が暴れている。そいつらに話を聞けばいいという事に気が付いた俺は全速力でそちらへ向かう。
「クロノ、そんなに慌ててどうしたの? リアは?」
ステージへと向かう途中、ガウシアとセシル会長を担いでいるライカに出会う。
「リア様は攫われた。今から奴等にアジトの場所を問いただしに行くところだ。それじゃ、急ぐから」
「え」
少し立ち止まり返答をすると、ライカの困惑を無視して再び全速力でステージへと向かう。
しばらく進むと前方から見たことのある男が騎士風の男たちを背負って走ってくる。さきほど俺と戦う予定であったアレス殿下と横に居るのは護衛の騎士だろう。
「君、引き返すんだ! こっちは危ない!」
「問題ありません」
アレス殿下の横にいた騎士らしき男の制止を無視して横を通り抜けようとするも今度はアレス殿下が体を使って行く手を遮ってくる。
「今は止めておけ。賊を倒そうとする君の勇敢な心は立派だが今のそれはただの蛮勇だ」
「申し訳ありませんが、今は急いでおりますので退いていただけますか?」
「こんなことを言いたくはないのだがいくら学生の中で強かろうが今行くと足手まといになるだけだ。分かれ」
頑なに通そうとしない目の前の男とアレス殿下をじろりと睨むと、力を少し解放させる。その瞬間、激しい破壊のオーラが廊下中に充満し、その圧で男に尻もちをつかせる。
アレス殿下はその圧を受けてもなお膝はつかない。その代わりにこちらを険しいまなざしで見定める様に眺める。
「クロノ、君は一体……」
「申し訳ありません。今は急いでおりますので」
そう言うと一気に力を解放させてステージの方へと走っていく。段々と前方の方が明るくなってきて小さくカリンが何かと戦っている姿が見えてくる。
「あいつから聞き出すか」
そう呟くと俺は力を解放しながらそこへ飛び出した。
♢
先程まで華々しい祭典が執り行われていた場所では二人の超常なる力を持った剣士たちが剣を激しく打ち鳴らしている。アーリア・グラルーンとカリン・アークライトである。
「ほらほら! 勇者様でももう限界なんじゃない?」
二人の剣戟は一度は魔物たちを失ったアーリアが劣勢となっていたが、赤い液体を飲むことによって魔王の力をさらに増幅させ、今ではカリンの方が劣勢となってしまっている。
「……覇斬!」
苦し紛れに放たれた赤黒い斬撃はアーリアの頬に一筋の血を滴らせることに成功する。
だが、無理やり技を撃ったためカリンは体勢を崩してしまう。体の重心がずれるのですら致命傷となるほど高度な剣戟の中において体勢を崩すという事はすなわち負けを意味していた。
「残念、私の勝ちよ、勇者さん♪」
「くっ……」
体勢を崩したカリンを逃がさないようにアーリアはその剣筋を縦に振り下ろした後であった。
アーリアの剣がカリンの身を切り裂こうとしたその限られた僅かな時間の間で突如として二人を漆黒の闇が包み込み、カリンに迫る剣を弾き飛ばす。
「な、なに!?」
勝利を確信していたアーリアは後ろへと飛び退がり、突如として現れた乱入者に緩みかけていた気を再度引き締める。その乱入者はというと剣が直撃したというのに何事もなく平然とそのまま尻餅をついたカリンの前に立っている。
「カリン、こいつは俺がやる」
カリンが顔を上げるとそこには黒い破壊の力で身を包んだクロノが立っていた。
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