第119話 懲りない連中

 ライカと二人で協力し、ガウシアとセシル会長、そして周りの騎士達の意識を奪うことに成功する。


 しかし、俺の心は焦っていた。リア様が居ないのだ。クリスには悪いが、しばらくあっちには戻れそうにないな。


 そうして懐からコミュニティカードを取り出す。


「カリン」


『どうしたの? 今、クロノと合流しようと思ってたとこだけど』


「悪いがカリンはステージ上の奴らの方に向かってくれ。俺は今、リア様の捜索で手一杯だ」


『リアも操られちゃったの!? それは大事だね。わかった、私はステージに向かうよ。クロノも後で合流してね』


「わかってる」


 そう言うと早々にコミュニティカードの連絡を切る。


「リア様が向かわれたのはあっちで合ってるか?」


 コミュニティカードの位置情報を見た俺はライカにそう尋ねる。


「うん、そう」


「ありがとう。ライカはガウシア達を見ておいてくれ。俺はリア様を迎えにいく」


「わかった」


 ライカの返事を聞くや否や俺はリア様が向かわれたであろう方向へと走り出す。


 まだそんなに時間は経っていないからすぐに追いつくはず。そう思いつつも焦りから破壊の能力が体から漏れ出し、足を着地させるたびに床が砕かれるのが分かる。


 少しして前方をゆっくりと歩いているリア様の姿が目に映る。


「リア様!」


 俺が呼びかけるも返事どころかこちらを振り向きすらされない。おかしい。ガウシアたちは襲い掛かってきたというのにリア様はこちらに危害を加えようとする素振りすら見せない。まるで何かに吸い寄せられていっているかのようで不気味に感じた俺はその足を速める。


 そこで不意に感じたことのある気配を察知し、足を止める。


 足を止めて数瞬して俺とリア様の間に黒い壁のようなものが出来上がる。


「またお前か、ダーズ」


「うん、俺のことを覚えてくれていてよかったよ。前は会話すらできなかったから」


 そうして影の中から現れたのは黒と白のツートンの少年。影に自由に出入りすることができ、さらに影を渡って移動することもできる『影と同化する者』の能力者であり、俺やカリンと同期でもある。


 そしてその横でリア様が足を止めている。


「お前達の当主に釘を刺しておいたはずなんだがな。リア様を巻き込むなと」


「ふっ、確かにあの時の俺達だったら黒の執行者であるお前にそう言われればうんと言わざるを得ないだろう。だがなぁ」


 そう言うと、懐から赤い液体の入った瓶を取り出す。


「魔神教団からもらったこいつさえありゃあ、お前なんて怖くねえ」


 そこまで聞いて俺は思い出す。確かキャルティさんが飲んで魔物化したのってあれじゃなかったか?


「魔物になって強化って訳か。またグロい事を考えやがる」


「なにを勘違いしてんだ? これを飲んで魔物化すんのは弱い奴等だけだ。俺くらい能力強度があれば能力強度が10倍くらいになるただの強化剤さ。まあ、使っちまった後はちょっと疲れるけどな」


 能力強度が10倍に膨れ上がるのだ。恐らくちょっと疲れるどころではなく、その分の寿命を削っている可能性が高い。相変わらずあいつは竜印の世代の事すらも駒だとしか考えていないのだ。


「やっぱりお前の所の主は碌でもないな」


「おっと、待ちな」


 そう言うとリア様の首筋にトンとナイフを当てる。


「お前が力を使おうとすればこいつを殺すぞ」


「あ?」


 その瞬間、俺の中に眠るどす黒い殺気が俺の感情を満たす。こいつ、今なんて言った? 殺すとか言ってたか?


「へ、へへ、そんな殺気を向けられても怖くないね。この状態でお前が俺に攻撃することなんてしないだろうからな」


 引きつった顔で言うギーズの言葉は確かに正しい。あいつの腕であれば俺が空間を破壊しようとも少し動いただけで容赦なくそのナイフをリア様の柔肌につきたてるであろう。


 ああ野放しにしておくんじゃなかった、あの時いれば良かったのだと後悔する。ふふっ、笑えてくるな。一応、公爵様の立場を考えて誰も殺しはしなかったものを。


「や、やべえかも! アンディ、任せたぞ!」


「やれやれ、君にも困ったものだね」


 そうしてもう一人の元竜印の世代がダーズの影から姿を現わす。そして赤い液体を飲み干すと能力を発動する。


「聖域」


「待て!」


 嫌な予感がした俺が手を伸ばした時には既にそこにリア様の姿はなかった。


「リア様ァ!」


 嫌な予感はまさに的中し、喉をつんざくほどのその叫びに対して返ってくるのはただ虚しい静寂のみ。破壊の力を前方に思い切り使おうとそこにはもうアンディの能力の残滓すら残されていない世界が広がっているだけであった。

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