第118話 騒動

 おいおい、大胆な登場だな。


 俺は目の前に突如現れた魔神教団らしき者達を警戒する。


 前の少年と同じくらい、下手をすればそれ以上の力を顔を銀色の仮面で隠している大男と女の方から感じ取ったからだ。


 あのレベル以上の奴が二人いるのかよ。


「だいたい、貴様を待ちさえしなければ今頃終わっていたのである」


「あなたの突撃だけの作戦が通じるわけないでしょう? 舐めすぎよ」


「舐めてはいない。我は最強なのである」


「はいはい」


 周りでは突然の不審者の登場に騒ついているというのに当の本人達は呑気なものだ。


『クロノ、聞こえるか?』


 クリスの声がコミュニティカードから聞こえてくる。俺はサッと手に取り、耳を傾ける。


「ああ、聞こえる」


『よかった。こうなってしまえば残念だけど闘神祭は続行不可能だ。私は今から戸惑っている観客達を避難させる。そっちは頼んでも良いかな?』


「大丈夫だ。だがリア様が最優先だぞ」


『相変わらずだね。分かったよ。それでいいから頼んだよ』


 プツンと切れる。クリスにしては慌ただしい声であった。まさか、相手がこんな大胆に乗り込んでくるとは思わなかったのだろう。


 俺も思わなかったけど。何せ、魔神族を追い詰めた精鋭達が所狭しと集結しているのだから。


『え、えーとこれは一体どういう状況で……?』


「どういう状況か? ふむ教えてやろうではないか」


 そう言うと大男は拳を地面に叩きつける。その拳は男の立っていたステージをいともたやすく砕き、衝撃波を持ってその強大さを周囲に知らしめる。


「貴様らの能力強度は我ら魔神教団が頂く! 抵抗しても無駄である! この偉大なる我に敵う者などいない!」


 高らかにその大男はそう宣言する。


「意味が分からないな」


 いつの間にか俺の近くに来ていた魔神教団の大男と引けを取らない程のたくましい体を持った白髪の男性、ハル・ゼオグラードが俺を守るようにして前に立つ。


「君たち学生はいったん避難するんだ。後ろの子たちも既に避難を始めている」


 見ると、メルディン王立学園側の選手席には王国の騎士団の人たちがリア様たちを守るようにして避難を誘導している。


 帝国側でも黄金騎士団が第一帝国学園の生徒たちの避難誘導をしている。事前にクリスが国王に伝えていたためか、避難誘導がスムーズだ。観客席の方も兵士が配備され、クリスを主軸に避難を始めている。


「ギャアアアッ!!!!」


 突如、魔神教団の向こうの方で火の手が上がるのが見える。それも黒い炎の。


「私の楽しみを奪った罪は重い」


 どうやらアレスが乱入してきた魔神教団員に怒って能力を使用したらしい。楽しみというのは恐らく俺との試合の事だろう。こんな非常事態だというのに一平民の俺との戦いが出来ないことを嘆くとは変な奴だ。


「既にクレスト殿下はお逃げになっておられます。殿下もお逃げください」


「グラザス副騎士団長か。弟が逃げたのなら良い。私は残る」


「はあ。そうおっしゃると思いましたよ」


 どうやらアレスは参戦するらしい。どちらにせよ俺が参戦するのはいったんリア様の避難が済んでからだな。そう思っていると、大男と対等に喋っていた長い金色の髪の女が手を上げる。


魅了コントロール♪」


 そう呟いた瞬間、何かの気配が俺の体を通り過ぎていった違和感を覚える。


「お、おい! いきなり何をする!」


「……」


 ふいにそんな声があらゆる方面から聞こえてくる。辺りを見回すと、仲間同士で剣を斬り合っている姿が各場所で繰り広げられている。


 何がどうなってんだ?


 観客席の方を見ると、先程まで順調に避難誘導が進んでいたというのに観客たちが王国騎士団へと襲い掛かったり、王国の騎士同士で剣を振るっている姿が見える。


「洗脳系の能力か」


 それもこれだけの人数を同時に操ることができるなんて……やはりこいつらはあの少年と同格の存在か。だとすれば、この能力は色欲の魔王の力。


「君! 早く逃げるんだ! くそっ、何がどうなっている!」


 俺の下へと振り下ろされた騎士の剣をハルさんが防いでくれる。


「ありがとうございます」


 俺はそれだけ告げると、一目散にリア様の下へと駆けていく。これだけの騎士が操られているのだ。リア様たちを誘導していた騎士たちも操られているかもしれない。


 ハルさんもいるし、Sランク冒険者も居たはずだしこの場は彼らに任せて大丈夫だろう。それよりもリア様の安否が心配だ。


「ライカ!」


 騎士に囲まれているライカの姿を見つけ、駆け寄っていく。ライカも俺の姿に気が付き、騎士を倒しながら俺の方へと向かってきて合流する。予想通り、操られてるっぽいな。


「クロノは操られてなさそうで安心した」


「他の皆はどうした?」


「私以外の皆は操られてる」


「マジかよ」


 あの女、どんな能力してやがる。数十万も能力強度のあるあの3人ですら操れるなんて。騎士たちに囲まれていてよく見えなかったが、前方にガウシアとセシル会長が居るのが分かる。


「仕方ない。いったん、ここを落ち着かせるか」


「うん」

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