第115話 氷雷
『それでは只今よりライカ選手対クレスト・ドゥ・グランミリタール選手の試合を始めます! 始め!』
試合開始の合図と共にライカは雷の能力を発動する。
強大な電流が辺りに迸り、それに伴う静電気によって彼女の髪の毛がゆらゆらと怪しげに逆立つ。
「その姿、やはりお前はあのSランク冒険者の『
「うん」
「ハハッ、これは都合が良い! お前を倒せばリアもきっと僕の魅力に気が付いてくれるじゃないか!」
既に勝ったかの物言いにライカは少しムッとする。
「それは勝てたらの話」
「なんだい? 僕が負けるとでも思っているのか? Sランク冒険者って言われて自惚れてないかな? 所詮はゴロツキだ。高尚な育ちである僕とは物が違う」
「そう」
クレストの不遜な物言いにすっかり興味を失ったライカは己が欲を満たすべく能力のボルテージを上げていく。
「
電流を体中に流し、強制的に身体能力を底上げする力。今回はこれ一本での縛りとなる。
極限まで強化されたライカの動きは凡人には見切る事すらできない。
腰を深く落とし、地面が抉れるほど力強く踏み込むと、一直線にクレストの方へと向かっていく。
「これだから単細胞は嫌いなんだよね。
雷で身体強化されたライカの目の前に複数枚の氷でできた盾が現れる。
ライカはそのままの勢いで叩き割ろうとする。
「やっぱり単細胞だ」
ライカが触れる直前に盾から複数の鋭利な氷が突き出してくる。
空中で体を捻り、かろうじてその氷の槍を避けるも、横腹に当たってしまう。
「……油断した」
氷の槍が掠っただけのはずのライカの横腹は少し凍りついている。
「僕の氷は強力だから触れるだけでも凍りつくのさ。どう? いつも通り動けないんじゃない?」
「そんな事ない」
ライカは身体中に走る電流の熱により、横腹の氷を溶かし切る。
「こうすれば良い」
「だからお前みたいな奴は嫌いなんだよ」
クレストが吐き捨てるようにそう言う中、ライカの中では目の前の男に対しての評価が変わっていた。
(少し触っただけであの力。気を付けないと)
そう思う反面、ライカの口角は徐々に上がっていた。
「な、何だよ。いきなり笑顔になって」
ライカはそれに答えることなく、無言のままその場から姿を消す。
「
嫌な予感がしたクレストは自身を中心に氷で出来上がった独自のフィールドを展開する。
その氷はライカの足元にも及び、絡みつくようにこおっていく。
「見つけた!
そうクレストが呟くと、ライカの周りのあらゆる方向から氷で出来た槍が襲いかかってくる。
バシュッ!
ライカは瞬時に足元に纏わりつく氷を溶かしきり、襲い来る氷の槍を電熱を纏った拳で叩き落としていく。
「
今度はフィールド上に次からへと槍を握りしめた騎士たちが現れ、ライカに襲い掛かっていく。
ライカはそれを体術だけで屠っていく。
その歩みは確実にクレストへと近づいており、自信満々の王子の顔に段々と焦りの感情が表れてくる。
そして、全ての騎士を叩き潰してクレストの目の前に現れたライカは呟く。
「意思のない玩具なんて怖くない」
「くっ、言わせておけば!」
ライカの拳がクレストの腹を目掛けて飛んでいく。
クレストはそれを
「無駄。私にはもうそれは効かない」
その極限までに強化された拳は氷の槍が現れる前に盾を叩き割り、クレストへと向かっていく。
ドゴッ!
鈍い音が鳴り、ライカの拳がクレストへと突き刺さり、吹き飛ばす。
「くっ、まだだ!」
渾身の一撃を食らってもなお立ち上がるクレストの姿にライカは少し感心する。
殴り飛ばされる直前にクレストは身をよじり、直撃を避けていたのだ。
咄嗟のその受け身は基礎的な身体能力をかなり鍛えていないと出来ない反応速度である。
クレストもまたライカ同様魔神族を相手どり、戦っていた猛者。戦闘の勘は一般生徒の域を超えていたのだ。
「何を油断している。僕の世界はまだ終わっていないぞ」
ステージ全体を覆うようにして展開されている氷で出来た世界。ライカは嫌な予感を覚え、その場から飛び上がる。
「遅いよ。
飛び上がったライカを捕まえるようにして氷の世界全てが上に向かって氷の腕を生やしていく。
「凄い」
叩き潰していくも、それでは間に合わないほどの氷が襲い掛かり、やがてライカの体を覆っていく。
そして出来上がったのは氷の中に閉じ込められたライカの姿であった。
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