第102話 第2試合
『次の試合はセシル・グラスバーン選手対メイル・ジェンナ選手の試合になります! 準備が出来次第、ステージにおあがりください!』
「それじゃあ、行ってくるね」
やや緊張した面持ちでセシル会長がステージ上へと上がる。
結局、先程の不正はクリスと俺以外に知る者はいない。ここで公にしてしまうと開催国であるメルディン王国の面目が丸つぶれという事もあるのだろうが、半分はクリスの趣味も入っていると思う。
「頑張ってください! セシル会長!」
リア様が自信のなさそうな会長を励ますように応援する。リア様に続き、ガウシアやクリスも声をかける。
「うん! 頑張るよ」
後輩たちの声に勢いづけられたのか、いつも通りの会長に戻った気がする。
『両者、準備が整いましたのでこれよりセシル・グラスバーン選手対メイル・ジェンナ選手の試合を始めます!』
合図とともに試合が始まる。
「相手はどんな能力を使うのかしら?」
「確か会長が仰っていた通りですと、『魔獣化』でしたかね? 体の一部が魔獣の姿になって強化されるとか」
「へえ、中々強そうな能力だな」
「竜印の世代」のエヴァンみたいな能力だな。あいつは全身が変化するから少し違うが。
まあ、不正を使うとはいえ、優秀な学校から選出された選手たちだ。腐っても実力はある。単純には勝てないだろうとは思うが、会長との相性的には良い気がする。というかそう言えば、さっき傀儡の能力を使ってきたのはどいつだ? 見た感じ居なさそうだが……。
まあ、戦闘員と諜報員が違うのは当然か。万が一捕まりでもしたらその時点で失格だからな。
「セシル会長の能力的に近接戦に持ち込まずに遠距離から攻撃を加えていけば簡単に勝てるんじゃないかい?」
「……そうはいかないみたい」
セシル会長はクリスの言うとおりに遠くから攻撃を放ちつつ、風の防壁を作り、相手との距離を保っていたのだが、慣れてきたのか徐々に足を獣人化させたメイルがどんどんと手の届くところまで近づいている気がする。
「まずいな、このままだとすぐに会長の風が破られてしまう」
案の定、セシル会長の風の防壁を突破し、魔獣の爪が振りかざされる。
「危ない!」
運よく相手がバランスを崩し、攻撃が会長の真横を通り過ぎる。まだ慣れ切っていないようだが、あの調子だとおそらく次は確実に当ててくるだろう。
獣ならではの感性を持ち合わせた柔軟な適応力。世界でも3桁の順位に入るセシル会長の暴風にこの短時間で対応できるのは驚異的だ。
「セシル会長! 頑張れ!」
周りの不安を払うかのようにリア様が応援の声を一層張り上げる。白熱した試合、さらには自身の暴風によって阻まれたその状況ではリア様どころか他の観客の応援すらも聞こえないであろうその状況でリア様の応援に答えるかのようにセシル会長が一瞬こちらを見た気がした。
そして次の瞬間、今までセシル会長を守るようにしてステージ上を拭き荒らしていた暴風の壁が突如としてその規模を縮小させていく。それをチャンスだと思ったのか、メイルが突っ込んでいくが、思ったよりも勢いが強いのか弾かれてしまう。
「へえ、会長のあの力は見たことが無いな。将来のために覚えておこうかな」
そう唸るクリスの視線の先には能力によって生み出された風の剣。能力の形態は変わっていない。しかし、先程までとはレベルが違うという事は誰の目から見ても明らかであろう。
こうなれば勝負は決したな。
その光景に気圧され、一瞬だけ動きを止めていたメイルであったが、果敢にもセシル会長へとその鋭い爪を光らせながら突っ込んでいく。
先程まであった風の防壁の効果を一切受けていないため、動きは一段と速くなっている。まさに人間離れしたスピードだ。
セシル会長も負けじと風の剣を携えてメイルへと詰め寄る。
――刹那、両選手の姿が交差する。
そして少し間があって倒れたのはメイルの方であった。
「勝者! メルディン王立学園! セシル・グラスバーン選手!」
白熱した試合を送った両者に分け隔ての無い拍手が起こる。クリスの圧倒的な試合とは違う興奮を帯びた歓声が至る所から聞こえてくる。
その拍手を背に受け、セシル会長がこちらに戻ってくる。
「お疲れ様です。セシル会長」
「ありがとう。これで先輩も意外と強いんだよってことが見せられたかな」
時折、後輩たちに引け目を感じていると言っていたセシル会長。あの力を発現するために日々努力していたに違いない。
「次の試合はガウシアの出番ね。もしあの偉そうな男が出てきたら叩きのめすのよ」
「うふふ、任せてください」
この闘神祭という晴れ舞台、それも主催国であるメルディン王国の顔に唾を吐きかけるような愚行を行った奴には少しだけ思う所があった。
「しっかりとお灸をすえてきますよ」
『次の試合はガウシア・ド・ゼルン選手対ギュスターブ・ドラーシク選手の試合になります! 両選手は準備が出来次第ステージ上へとおあがりください!』
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