第103話 突然の事態

「やはり次はあなたですね」


 壇上に上がったガウシアの目の前には先程から常に偉そうにしていた髪の長い男が立っていた。第二帝国学園の期待のホープ、しかし実のところは卑怯な手を使い勝とうとする卑劣な男、ギュスターブ・ドラーシクである。


「ケッ、他の奴等は何の役にも立たなかったな。あ~あ、これでまた俺達は第一のお荷物だなんだって言われちまうよ」


 ガウシアの言葉が聞こえているのかいないのか、一人気だるそうに呟くギュスターブ。そしてギロリとガウシアを睨みつける。


「せめてエルフの国の王女様でも倒しておくかぁ」


 その厭味ったらしい声色にガウシアは眉を顰める。まるでギュスターブにとって自分は取るに足らない存在とでも言われているような気がしたからだ。


「あなたのような卑怯な人に負ける気はしません」


 ガウシアが強い口調で応戦するもギュスターブはフンッと鼻で笑い、聞き流す。


『両者、準備が整いましたのでこれよりガウシア・ド・ゼルン選手対ギュスターブ・ドラーシク選手の試合を始めます!では、始め!』


「あぁ、そうそう、王女様よ。死なねえように気を付けておけよな。今からあんたが相手すんのは一人じゃなくこっち全員の力だから」


 その瞬間、ギュスターブの纏う雰囲気が変化しそれとともに控えている第二帝国学園の生徒達6人が全員その場に倒れる。


「何をしたのかはわかりませんがお仲間さんが倒れてしまってはあなた達に勝ち目はありませんよ?」


 突然の出来事にガウシアは困惑を隠せずに聞く。


「フンッ、どうせ俺以外は勝てないさ。ここまで来たら最早俺だけが恥をかかなければそれでいい」


「最低ですね」


「そうだなぁ、俺は最低だ!」


 ニヤリと笑みを浮かべるとその場で地面を蹴る。そしてコンマ1秒にも満たない時間にしてガウシアの目の前まで迫りくる。


操力そうりょくごう


木の牢ウッドプリズン!」


 ギュスターブの拳がガウシアの腹に突き刺さる直前で木の牢が間に合い、ギュスターブを捕えようとする。


「甘いなぁ。言っただろ? こっちは一人の力じゃねえんだよ。こんなもん!」


 ガウシアの作り出した木の障壁が衝撃に耐えられなくなり、罅が生じ始める。ギュスターブの拳はガウシアの防御を凌駕するほどまでに力を増していた。


 やがて突破されるであろうことを察知したガウシアは木の牢に集中させていた力を霧散させ、次の一手に力を込める。


「神聖樹」


 ガウシアが小さく呟いた瞬間に地面から先程とは様相が変わった雄大な白い木が無数に生え始める。


「ああ? なんだその力は。聞いたこともねえ」


「あなたに教える義理はありません」


 ガウシアは冷たく言い放つと、近くに生えている一本の白い木を操作し始める。


 その操作された白い木は凄まじい速さで無数の枝をギュスターブに向けて伸ばしていく。


「チッ、流石に食らっちゃ不味いよな。操力・贄」


 そう言うと黒く濁った空間が生まれ、ギュスターブの体を神聖樹の枝から守るようにして覆い隠していく。


 そして神聖なる枝の一端がその黒い空間に突き刺さった時、どこからか悲鳴が聞こえてくる。


 異変に気が付いたガウシアは攻撃の手をピタリと止める。


「何をしたのですか?」


「何をしただって? したのはあんたの方だぜ?」


 にやりと気味の悪い笑みを浮かべながら、黒い空間から顔をのぞかせるギュスターブ。ガウシアはそれに激しい嫌悪感を抱く。


 流石にここまでギュスターブが暴れれば運営側から中止の合図が出てもおかしくないのだが……


『試合中のところ失礼いたします。ここでお知らせです。只今、第二帝国学園のその他の選手が戦闘不能状態に陥りましたことを確認しましたので、この試合はメルディン王立学園の勝利とさせていただきます』


「何だよー、これから良い所だったじゃねえか!」


「水差してんじゃねえよ!」


 突然のアナウンスに会場の一部からヤジが飛ぶ。ステージから観客席まではかなり距離があるため、ガウシアとギュスターブが普通に良い試合を繰り広げていると思ったのだろう。


 しかし、見る者が見ればわかる。現に来賓たちの間からは野次は飛んでこず、寧ろ安堵したかのような表情まで見える。


「チッ、つまんねーな」


 途中で試合を止められたギュスターブは不満を露わにしてステージ上を去る。一方でガウシアは虚を突かれたかのような表情でステージ上を後にするのであった。

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