第100話 順番

 開会式も終わり、10分間の準備時間となる。


 トーナメント表を見ると、1試合目からメルディン王立学園は出場のため、そんなにゆったりとする時間はないが。


「それで順番はどうする? 一応1試合目までに提出しなきゃだから」


 セシル会長が一枚の紙を机の上に置き、そう問いかける。


「ちなみに1試合目は第二帝国学園ね。今年入ってきた1年生の一人がかなり強いらしいわ。噂によるとAランク冒険者らしいわね」


「Aランク、大したことない」


「まあ、お前からすれば大したことはないだろうな」


 そうして俺達は取り敢えずの出場順を決めた。先鋒にクリス、次鋒にセシル会長、中堅にガウシア、副将に俺、そして大将にリア様という順になった。


 敵の順番も分からないため、決め方はほとんど適当である。


「と、そういえばカリンはどこに居るんだろ」


 てっきり選手の控室に居ると思っていたけど。


「カリンなら陛下の席の横に座っていたわよ。多分、VIP兼陛下の護衛だろうけど」


「へえ、そうなんですか」


 そんなところまでよく見ているなと感心する。VIP席って確か観客席より上にあるあのガラス張りの部屋の所だよな。


「それにしても凄いメンツですよね。グランミリタール帝国の黄金騎士団にその皇帝陛下、Sランク冒険者で有名な方にギルド総本部長までいらっしゃってますし」


「それを言うならガウシアの所の母親まで居るんだからな。ここに五つの光の内、カリンも含めれば4つの勢力が集まってることになる」


「後は黒の執行者様さえ来てくだされば嬉しいのですが」


 実は来てるんだがな。言わないけど。


 横からライカの視線が刺さっているのが分かる。こいつはもう殆ど気付いてるよな。


「黒の執行者は来ないだろうね。あの方は人と接触するのを避けるきらいがあったし」


 まあ確かにあの頃はクリスの言う通りかもな。別に人と接するのが嫌という訳ではなかったが、積極的に一人の時間を作っていた気がする。


「ちょっとこれ提出してくるね」


「あ、ありがとうございます」


 セシル会長が用紙を提出しに扉を開こうとすると、先に扉が開き、レイディ学長の姿が現れる。


「おう、セシル。用紙を提出しに行こうとしていたのか? 私が出しておこう」


「良いんですか? ではお言葉に甘えて」


 そう言ってセシル会長はレイディ学長に紙を預けようとするが、それをクリスが手で阻止する。


「誰かな? あんまりこういうことはしてほしくないんだけどね」


「何を言ってるのクリス君。どう見ても学長じゃ?」


 セシル会長が困惑してクリスを見つめる。しかし、クリスは答えることなく続ける。


「恐らく擬態系の能力かな? でも残念だったね。こういうのは私は何度も見てきたからすぐわかるよ」


 まあ、グレイスを率いているくらいだしな。そして目の前のこいつは彼らよりもかなり杜撰だ。クリスの目をごまかせないのも当然だろう。


「学長のホクロは右頬にあっても、そんなに目元に近くない。流石にお粗末だと思うけど?」


 クリスがそう言うと、学長のふりをした何者かはうんざりしたかのような顔をする。


「チッ、評判通りの実力か。相手が悪かった」


「今回は私の実力じゃなくて君が微妙だっただけだけどね。それと余裕ぶっているけど、これはれっきとした違反行為じゃないかな? 私がこの右手で触れれば君の擬態なんてすぐに解けるんだけど?」


「残念だったな。そうはいかないさ」


 そう言うと、学長であった者は重心を失ったかのようにその場に倒れる。


「……擬態じゃなくて傀儡だったか」


「恐らく両方ね」


 傀儡使いの人形に擬態の能力をかけたってところだろうな。そしてこんなことをして得があるのは第二帝国学園だけ。犯人は決まり切っている。


「まあ、勝てばいいだけだから別に良いか。これで下手に追及して間違えていたらたまったもんじゃないし」


 一貫して楽しそうな顔を崩さずにそう言うクリス。絶対面白がってるだけだな。こいつが本気を出せばグレイスを招集して裏を取れるため、今の言葉は本心ではないだろう。


「あー、びっくりした。じゃあ今度こそ提出しに行ってくるね」


 そうして俺達の闘神祭の始まりは不穏な空気から始まるのであった。

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