第99話 闘神祭 開会式

 奇抜な格好をした者や楽器を鳴らす者が舞台上で演技を繰り広げていく。その盛り上がり方といったらまさに祭りとでもいうべき様相であった。


 本日、闘神祭の開会式があり、それに対するセレモニーらしい。


 今回は魔神族との戦いに勝利を収めたことに対する祝いという意味も含んでいるので、前とは比べ物にならないくらい盛り上がっている。一般市民の参加は勿論、各国の首脳までもが集まっている。


 その中で熱い戦いを繰り広げるのは八校の学生たち。世界で最も優秀な八つの学園として魔神族戦前からずっと変わらず、この八校だけが出場することを許されていた。


「き、緊張するわね」


 セレモニーが終わり、俺達生徒が入場する出番が来た。まだ戦う訳ではないとはいえ、この数の観客の前に姿をさらすというのは俺達学生の多くにとっては初体験であった。


「大丈夫さ。胸を張って歩けばどれだけ硬くてもそんなに不格好には見えないから」


「クリスは緊張しないのか?」


「僕はほら、一応王子だから慣れてるんだよ」


「私もある程度は慣れてますね」


『それではまず開催国であるメルディン王国のメルディン王立学園の皆さんの入場となります。皆さん、拍手でお出迎えください!』


「ほら、行きますよ、セシル会長」


「ええ、ありがとう」


 緊張がこの中でも特にひどいセシル会長の手を引くクリス。それをきっかけにセシル会長を先頭にして舞台へと歩みだす。


 一気に視界が開けると、至る所から拍手が鳴り始める。その拍手の音は意識を持っていかれるほどの音量で会場中に鳴り響いている。


「クロノもあまり緊張しないのね」


「私が注目されているわけではありませんので」


「学園1位が何を言ってるのよ」


 リア様がいくら仰ろうと、事実は変わらない。俺は周りに比べて華々しさが無い。更に最も知名度が無いと言っても過言ではないだろうし当然観客が俺に好意的な興味を持つことはないのである。


 そこでふと実家の事を思い出し、ちらりと観客席の方を見やる。うん、やはり誰も居ないな。


 エルザード家がメルディン王国から去ったということが発表された当初は大騒ぎになっていたが、それから何の音沙汰もないため徐々に民衆の頭からその話題は薄れつつあった。


 勇者であってもその程度なんだなと余計なことを考える。


『次は双子の皇子が率いる今大会最有力優勝候補、第一帝国学園の入場になります!』


 手を振り、歓声に応える第二皇子とその横で寡黙に歩く第一皇子。両者の態度と髪の毛の色が対極であることも相まってより鮮明に彼らの存在を魅力的に写し出す。


 そして何を思ったか、先頭を歩いていた男がこちらに歩み寄ってくる。


「また会えてうれしいよ、リア」


「その名で呼ばないでくれる? あなたと馴れ合う気はないから」


「列を乱すな、クレスト」


「はいはい、兄上はいつも堅苦しいったらありゃしない」


 お前が変なだけだろうが。こんなところで輪を乱せるその胆力は羨ましいが。


『三番目はエルフの国の最高峰の学院、アルラウネ学院の入場です!』


 髪の毛を後ろで束ねた背の高いエルフの女性が先頭を歩いている。ここからでもわかる。あれがセシル会長が言っていたヘルミーネ・アーレントだろう。圧倒的にオーラが違う。クレストやアレスとはまた違った迫力がある。


「ヘルミーネ、久しぶりですね」


 ボソリとガウシアが呟く。ヘルミーネもこちらに顔を向ける。しかし、その眼差しにはどこか棘がある。どうやら今はあまり友好的な関係ではないらしい。


「やっぱり怒っていますよね」


 先程と同じ声量で寂しそうに呟くガウシア。思い当たる節でもあるのだろう。


 それから同じように他の五つの学校も紹介され、全校の入場が終わる。


『それではこれより第百回闘神祭~黒の執行者を称えて~の開会式を始めます!まずはメルディン国王陛下からのご挨拶です!』


 そこフルネームで読み上げるのね、と心の中でツッコミを入れていると壮年の男が壇上に上がる。周りには厳重に護衛が目を光らせている。あれがクリスの父親か。この国で暮らしてるくせに初めて見た。


『ごきげんよう。私はこの国の王、ガイアス・ディ・メルディンである。この大会では見て分かる通り、こうして沢山の人々が集まってくれた。だが、諸君らにはこの観衆の圧力に屈することなく日々研鑽してきた力を存分に発揮してもらいたい。楽しみにしておるぞ。私からは以上だ』


『大変ありがたいご挨拶ありがとうございましたー!ではこれから闘神祭の要項を説明していきたいと思います!』


 なんか国王の扱い雑じゃない? と疑問に思っているうちに大会の説明が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る