第81話 エルザード家の動向
「待て」
短く告げられた言葉と同時に俺の足が凍りつく。
「まだ私の話が終わっていない」
俺の足を止めるために能力を使ったのはグレイスの団長であるジオン・ゼオグラードであった。
「ジオン。いい加減にしないか」
流石のクリスも少し苛立ちながらそう告げるが、白髪の青年はそれを意に介さずにじっとこちらを見据えている。
「ねえ、ジオン。あなたたちの組織って他人の付き人を追及するのが仕事なのかしら?」
「違う。疑いの晴れていない者を帰すわけにはいかない。ただそれだけだ」
ジオンは未だに俺を疑っているらしい。
というか地味にリア様ってグレイスのことを認知してたんだな。だから最初、あんなにすんなりと状況を把握できたのか。
「悪いが、リア様が帰ると仰っている。お前の話には付き合っていられない」
俺はまた前を向くと凍り付いている足をさも何もないかのように破壊して軽々と動かし、前に進む。
「隊長の拘束をあんなに簡単そうに解くなんて!?」
なにやら周りが騒々しいが、気にせずに歩いていると今度は周りに氷でできた5本の槍の様な物が前方に現れ、俺に凍てつく刃先を向ける。
「ジオン」
「殿下は少しお黙りください。これも王国のためです」
クリスが諫めるもジオンの思いが揺るぐことはない。
クリスとジオン、二人の思いの違いは単純に俺との関係性から来ているのだろう。俺のことをよく知らないジオンは得体のしれない力を持つ俺に危機感を抱いている。
俺は向けられた氷の刃に向けて破壊の力を放つ。
すると、パリンという音がして呆気なく崩れていく。
「やはりその力、危うい」
ジオンの両手に力が集まっていく。
「ジオン、そこまでだ」
クリスがそう言った瞬間、ジオンの両手に籠っていた力が霧散する。いや、正確に言えば封印される。
「君が私よりも強いのは確かだけど、主人の言う事を無視し続けるのはいただけないな」
「……申し訳ありません。少々、熱くなってしまいました。クロノ君、リーンフィリアさんもすまなかった」
ジオンは平坦な口調のまま謝罪を述べるとそれ以降は手出しを辞めたようだ。ドサッと近くの椅子に座る。
「ごめんね、クロノ、リーンフィリア」
「まあ結果として何もなかったから別にいいけど」
「リア様が許されるのであれば俺は大丈夫だ」
それにジオンのあの攻撃は大して本気でも無かっただろうし。
「じゃあ、私達はもう行くから」
そう言って扉を開けて出ていくリア様に従って今度こそ俺もグレイスの拠点を後にするのであった。
♢
「らしくなかったぞ、ジオン」
「私から見ても今回の隊長はいつもとは違うと思いました」
表情を変えずに椅子に座るジオンに向かってクリスとカトリーヌが問いかける。
「申し訳ありません。少し彼の力を試してみたかったもので」
「それは枢機卿を倒したという事実から大体わかるだろう?」
「実際に見たわけではありませんので」
相変わらず平坦な口調のままそういうジオンの本当の心情を悟ることのできる者は少ない。その数少ない理解者の一人であるクリスですら今回のように主人の言う事を無視して強行するジオンの気持ちを理解することが出来なかった。
全員が納得のいかない顔を浮かべている中、突如としてリュークのコミュニティカードに連絡が入る。
「失礼」
リュークは端の方へと移動して連絡を受け取る。いつも通りの光景のため、特に誰も気にせずに話は進んでいく。その中でジオンの口端が少しだけ上がる。
「……ああ、ああ、何だと!?」
連絡を受けていたリュークが大声を上げ、そのまま数度やり取りをしたのちに急いで連絡を切り、こちらに戻ってくる。
そしてクリスの目の前でひざまずく。
「報告です。殿下」
「なにかあったのかい?」
「はい。つい先ほど、エルザード領を偵察に行った私の部下からの連絡がありました」
「なんて言っていた?」
「はい、エルザード領がもぬけの殻だったようです。もしかすると私達の監視がバレてしまったのかもしれません」
その報告はクリスからすれば青天の霹靂であった。
エルザード領がもぬけの殻? つまりは王国を脱出した可能性が高いという事だ。
「やはりそうなりましたか。あちらには隠密のスペシャリストがいますからね。殿下どうなさいますか?」
ジオンは立ち上がり、そう言うとクリスに判断を仰ぐ。
「……いったんは父上にこのことを伝える。流石に第1王子だけで判断して良い物じゃないからな。恐らく一先ずは国民には黙っておくことになると思うけど。取り敢えずジオン以外のグレイスのメンバーでエルザード家たちが行ってそうなところのあたりをつけておいてくれ」
歴史は少しずつ動き出す。
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