第74話 魔神教団幹部
前人未踏、まさにその言葉がふさわしいであろうその辺境に一つの大きな教会が建っていた。中では3人の男女が円卓を囲んでいる。
「ねえ、怠惰は結局どうなったの?」
色欲の魔王の子は残りの二人に問いかける。その甘い声は男女問わず誰でも誘惑できるほどのものであったが、ここに心を動かすものはいない。
「恐らく何者かにやられた。まったく軟弱な奴である」
傲慢な魔王の子はそう声を発する。
「知りたい知りたい、何があったのか知りたい」
タガが外れたようにそう言うのは強欲な魔王の子。
3人が3人とも、魔神教団の枢機卿という位についているものだ。今、魔神教団教祖のレヴィを待っているところであった。
「各地に散らばっている我々が集められたということは怠惰のことについてだろうな」
「うむ、まさにその通りだ」
その妖艶な声に3人ともがびくりと体を震わせる。先程までこの部屋には確かに3人しかいなかったはずなのだ。
ギィと椅子の音が聞こえ、そちらに3人の視線が集中する。
いつの間にかそこには赤い長髪に黄色い目をした魔神教団教祖、レヴィが鎮座していたのだ。
「何を驚いておる? 魔王の力を与えられたであろう者がまさか気付かなかったわけではあるまい」
妖艶の中に怪しい影を落としたその笑みは魔王の子たちに不気味さを感じさせるほどだ。
「と、当然だ。突然話しかけられて驚いただけである」
「私だってわかっていたわよ?」
「知りたい知りたい、どうやってそこに移動したのか知りたい」
反応は三者三様。決して認めないものと、最早認める認めないの領域には居ないもの。
魔神教団教祖ははぁとため息をつく。
「まあ、よいか。本題に入ろう。今回、怠惰に任せておったメルディン王国。あそこには勇者が居ると言えど奴を倒しきれるほどではない。妾は他の勢力が存在していると考えておる」
「他の勢力? まさか黒の執行者とか?」
「それはいかにも短絡的な考えである。単純に怠惰が勇者に負けるほど弱かったということであろう」
「知りたい知りたい、誰に怠惰が負けたのか知りたい」
「まあ、待て。妾としても黒の執行者とは思っておらん。あ奴は確か魔神様との戦いでかなり負傷し、一説には死亡したと言われておる」
「死亡しただと? そんな話は聞いたことが無いのである」
「私も知らないわぁ。誰が言いだしたのかしら?」
「知りたい知りたい、黒の執行者がどうなったのか知りたい」
レヴィの衝撃的な発言はこの場にいる誰もが耳を疑うほどであった。なにせ黒の執行者が死んだかもしれないという情報は魔神族の中だけで広まっている説だからである。
何故魔神族の中でこのような説が広まったか、それは誰がどう見ても死ぬだろうと思うほどあの者は衰弱していたように見えたからであった。
「ならばメルディン王国騎士団長のハル・ゼオグラードであるか? 王国の実力者と言えば勇者の他に思いつく者はその者かSランク冒険者くらいである」
「それもないな。白い獅子が強いと言えどあ奴では怠惰には到底及ばん。それにSランク冒険者の中で怠惰を倒せそうなものもおらん。力を合わせれば倒せるのであろうが、そんなに集まっておれば流石に妾が気付く。まだ見ぬ強者と考えるのが無難であろう」
「まだ見ぬ強者……そんな者が本当に居るのかしら?」
「人類のほとんどは魔神族との戦いに駆り出されたはず。そこで台頭しない強き者など果たしているだろうか?」
「知りたい知りたい」
「“王国の影”という言葉を聞いたことはあるか?」
レヴィのその問いかけに頷く者は誰も居ない。それもそうだろう。このことを知っている者は限られている。
「国王が動かしていると考えられるメルディン王国の裏の組織だ。一人一人が高位魔神族よりも強いとされている。かつて、大戦においてこ奴等に裏から殺された魔神族は数多く存在する」
「王国の影……しかし能力強度の順位を調べても該当しそうなものは思いつかないであるが」
「あんなもの、いくらでもごまかそうと思えばごまかせる。なんなら測らなければ良いだけだ。黒の執行者がその最たる例であろう」
レヴィの言葉に一同は納得し、頷く。
「でもそんな実力者たちをおびき出すのは難しいのではないかしら?」
「それがそうでもない。あと少しすればメルディン王国にて闘神祭が行われる。そこに襲撃すれば必ず奴等は現れるだろう」
妖艶な笑みを浮かべてレヴィは続ける。
「奴等ほどの能力強度を吸収できれば魔神様の復活も近い。ああ、早くそのご尊顔を拝みたい」
「ふむ、それなら我に任せるがよい」
傲慢な魔王の子がガタリと音を立てて椅子を引き、立ち上がる。
「すべてを殲滅してみせよう」
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