第7章 暗躍
第73話 特別ゲスト
合宿での魔神教団の襲撃の後、俺たちは学園に戻り、またいつも通りの生活が始まった。
学長は関係各所に自らの足で訪ね歩き、事情説明を行なっているらしい。
クリスから聞いた話では俺たちのもとに事情聴取が来ないように色々と頼み込んでくれているらしい。
今回の事に相当責任を感じているらしい。あまり自分を責めないでほしいものだ。悪いのは魔神教団だけなのだから。
「クロノ、話聞いてる?」
「え、あーえーと、なんの話でしたっけ?」
「やっぱり聞いてない」
「今日の講演会についてだよ。誰なんだろうねって話になったの」
話を聞いていなかった俺にカリンが説明してくれる。
講演会?
「まさか講演会のことも聞いてなかったの? さっき先生が前で話してたじゃない」
「も、申し訳ありません。少し考え事をしておりました」
「クロノさん、最近そういうことが多いですよね。もしかして前の合宿の影響ですか?」
ガウシアが心配そうにそう聞いてくる。
確かに魔神教団と接触してからそのことばかり考えるようになったかもしれない。これは反省だな。
「すみません。以後気を付けます」
「よろしい。じゃあ話を戻すんだけどね、今からここに来て講演してくれる特別ゲストは誰だと思う?」
そう聞かれても俺にはピンとくる人はいない。頭に浮かぶのは現1位のあの方だが、そもそもあの方が講演をしにくるのは物理的に不可能だから違うだろう。
「Sランク冒険者の誰かですかね?」
「それはない。奴等を学園に呼ぶのはリスクがある」
俺の回答は一番詳しい奴にダメ出しを食らう。そうかな? 俺が出会った時は割と普通な奴が多かったんだけどな。
「多分だけど、この国の誰かじゃないかな?」
カリンがそう言うとガラッと扉が開く。
「お前ら、今から特別ゲストの方が入ってくるから失礼のないようにな。ではこちらに」
ギーヴァ先生がそう言って道を譲ると、白い髪の毛がちらりと見える。
「おい、あれって」
「まさか白い獅子の」
周囲の生徒たちからざわめきが起こる。有名人なのだろうか?
剛健な体に長い白髪をワイルドに散らした壮健な男が姿を現す。
「Sクラスの皆、よろしく。俺の名はハル・ゼオグラード。この国の騎士団長だ」
そう男が言うと辺りから大きな拍手と驚きが走る。
「まさかハル様が来るなんて……」
「おいおい、やべえな」
生徒たちが興奮したように言うが、当の本人は頭をかいて恥ずかしそうにしている。
「カリン殿やライカ殿が居る前でそう言われると恥ずかしいな。俺なんて彼女たちより大したことないんだからな」
「そんなことはありません。白い獅子と言えば魔神族との戦いで一騎当千の強さを見せた英雄です。十分大したことあると思います」
謙遜するハルをフォローするようにカリンがそう発言する。
「カリン殿に言われちゃあ、照れていても仕方ねえか。おし、じゃあ取り敢えず講演でも始めるか。つっても俺の体験談を話すだけなんだが」
そういえばゼオグラードって言えばジオンも確かゼオグラードだったよな。最近あまり学校に来ていないようだったからすっかり忘れていたが。
「そういえばジオンの奴は来ていないのか。まったく、兄が講演をするというのに」
ハルは少し残念そうに言うと講演を始めた。
♢
「結構ためになったわね」
「騎士を指揮する立場のお方だからね。私も結構ためになったよ」
特別講演が終わり、休憩時間。各々の感想を述べる。
「カリンはどうせ蹴散らすだけなんだから大してためになってないだろ」
「そんなことないよ。ちゃんとためになったもん」
俺のからかいにムキになって否定するカリンを微笑ましく思う。
「そういえばジオンさん、最近あまり学園に来られていないですよね……何かあったのでしょうか?」
♢
黒いローブを纏った3人の男女がコツコツと靴音を鳴らしながら歩いている。目の前にはその者達から逃げるように走る研究者風の男。
「逃げても無駄だ。お前達が非道な人体実験をしていたのは分かっている」
「ひ、非道なんかじゃない。能力強度を集めていただけだ」
「それで人が死んでいるのなら非道じゃなくって?」
「魔神様に吸収されることになるなら奴等も本望だろう」
怯える表情から一転、恍惚とした表情を浮かべる研究者に女性はうげえと引くような動作を取る。
そこで、先程まで黙っていた真ん中の黒いローブの男が手を挙げる。
「断罪する」
その瞬間、研究者の男は凍てつく氷に体を包まれる。
そうして心臓の鼓動はまだなっているその氷像に蹴りを入れて粉々にする。
「あらあら、隊長の能力は相変わらず化け物ですね」
「……行くぞ」
そうして人知れず魔神教団のアジトが一つ潰れるのであった。
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