第66話 魔神教団

「お前達が魔神教団か」


 カリンから聞いていた魔神を信仰する者。それが魔神教団だ。


「たしか魔神を封印した水晶は行方不明になったって聞いているが……もしかしてお前達の仕業か?」


『五つの光』の内の一つであるグランミリタール帝国に保管されていた封印の水晶が魔神を封印した次の月に何者かに盗まれていたということで一時期騒ぎになったものだ。


 当時は魔神族の残党の仕業だのなんだのと言われていたが、結局、魔神が解けない封印を他の者が解けるはずがないということで落ち着いた。


 未だにその封印の水晶は見つかっていない。


「ええ、私達が所持しております」


「なら返せ」


 目の前の紫色のローブの者が気付けないほどの速さで近づき、拳を振るう。


「おっと、危ないですね」


 完全にとらえていたはずの俺の攻撃は空を穿つ。


「所持しているとはいっても封印の水晶は本部にありますので私に返せと言われても困ります」


 本部ね。魔神教団って支部があるほど大きくなっているのか。


 というか今の避け方は間違いなく手練れだ。


 そう感じさせるほどの相手……少なくとも2桁順位には入っているだろう。


 そこまで強いものならある程度顔が知れていて当然なのだが、先程近づいた際にちらりと見えた顔にまったく覚えはなかった。


 こういうものはたまにいる。それこそ犯罪者や世間から断絶された生活を送っている者なんかは能力強度測定を行なっていない者が多いため、なんら珍しくはない。


「なぜお前達は魔神を復活させようとしている?」


 当然の問いをその男に投げかける。


「魔神様はこの腐った世の中を全て壊して私達を救済してくれるからです」


 男はなんの疑問も持たずにそう言う。


「魔神が壊すのは腐った世界だけじゃねえぞ? 当然お前達も殺される」


「それはありません。私達は魔神様の配下ですから」


「本気で言ってるのか?」


「はい」


「……どうやらお前達と俺とは相いれないらしい。まったく言っていることが理解できない」


「はは、そうでしょうね」


 俺は目の前の魔神教団の存在が許せない。俺が、人類がどれだけの思いで魔神を封印するのに至ったと思っているのか。今、こいつらがしていることはその人類の思いを踏みにじっていることと同義なのだ。


 もういい。気になっていたことは聞いたからさっさと片付けるか。


「ガウシア、セシル会長は少し下がっておいてください」


「あなた一人で戦うの? 無茶よ。相手は全員がかなりの手練れよ」


「大丈夫です。私はこのような者に後れをとることはありませんから」


 俺はそう言いながらブゥンという音を立てて破壊のオーラを纏い、構えを取る。


 そして、セシル会長が何かを言おうとしたのも聞かずに地面を踏みこみ、敵の下へ突っ込んでいく。


 目の前の男は明らかに他の者よりも強い。


 そのため、周りにいる者に狙いを定める。


「まずは一人」


「はっ?」


 俺の接近に一切気が付いていない者の横っ面を破壊の拳で殴り飛ばす。


「二人、三人、四人……」


 一人目を皮切りに次から次へと殴り飛ばしていく。


 半分くらい倒したところで先程の男がスッと俺の前に立ちはだかる。


「あまり私の部下を苛めないでいただきたい」


「黙れ」


 俺は勢いをそのままに男に破壊の拳を向ける。


「ザグール様!」


 ザグールと呼ばれた男が俺の拳を受け止めるために前に突き出した両の腕が、いとも簡単に弾き飛ばされる。


「つ、強い。あなたはいったい何者ですか?」


 骨が砕け散ったであろう両腕をブランと垂れ下げながらこちらを睨みつけてくる。


「ただの学生だ、ザグール」


「……気安く私の名を呼ばないでいただきたい」


 そう強気に言ってはいるものの、先程の俺の攻撃で満足に腕を動かせず内心では焦っているのだろう。少しずつ俺から距離を取ろうとしているのが分かる。


「今更もう遅い」


「ザグール司祭!」


 ザグールを守るようにして一人の紫のローブが飛び出してくる。


 俺は何のためらいもなく、その者を殴り飛ばす。


「あなたには情というものがないのですか?」


「情はある。ただ、情を持つ相手を選んでいるだけだ。特に魔神に加担しているお前達に情なんてものはわかない」


「それは残念です」


 俺のすぐうしろから声が聞こえてくる。


 先程まで目の前にいたはずのザグールの姿がいつの間にかいない。


「空間移動系の能力者か」


「ご明察ですが、もう遅いですね」


「クロノさん(君)!」


 ザグールの手に握られたキラリと光る短剣が俺の首をめがけて振り下ろされる。


 しかし、刃が俺の首に到達することはない。


 破壊のオーラに触れた瞬間に、その刃は粉々に砕ける。


「なっ!?」


「終わりだ」


 ドゴッと鈍い音と共にザグールを殴り飛ばし、意識を奪う。


「残っているのはこいつらだけだな」


「……」


 未だ闘志を残している教団員に破壊の力を向ける。



 ♢



「ここにいる奴はこれで最後か」


 魔神教団員を全員まとめて縄で縛ると、俺は二人を屋敷まで送る。


「やあ、クロノ。無事でよかった」


 屋敷の前に戻ると、クリスが無事な様子でこちらに手を振る。


「クリス、二人を見てあげてくれ。二人ともかなり疲弊している」


「分かった。クロノはどうするんだい?」


「決まってるだろ? リア様を探しにいく」


 ライカが居れば今頃戻っているものだと思っていた俺は少し焦りながらそう言う。


 それにカリンも居ない。


 嫌な予感がする。


 俺は急いで皆を探しに森の中へと入るのであった。

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