第65話 怪しい集団の正体
~襲撃の少し前~
「怖いですね~」
「ええ、そうね」
ガウシアが話しかけるとセシルも相槌を打つ。ガウシアにはなぜセシルがそんなにも元気がないのかが不思議だった。
「疑問に思っていたのですが、セシル会長はどうしてそんなに元気がないのでしょうか?」
「えっ? 元気ない?」
「見ていたら分かりますよ」
「……そうだったの。自分の中では元気にふるまっているつもりだったんだけど」
セシルはそう言うと、少し自嘲気味に微笑む。こんなことはあまり言うべきではないのだろうなと思いつつ、ガウシアの雰囲気につい心を許したくなる自分がいる。
「先輩ね、ちょっとだけ君たちに妬いてるんだと思う」
「妬いてる、ですか」
「うん。だって私よりも君たちの方が強いんだもん。それが生徒会長として、君たちの先輩として情けないなと思って」
言いながらセシルはリーンフィリアに負けた時のことを思い出す。あの時、圧倒的な成長を見せたリーンフィリアに何も歯が立たず負けたのだ。
その後の5位決定戦ではまったく能力を見せることなく敗退したジオンの余裕そうな顔が今でも忘れられない。
なんだ、私なんかいらないじゃん、そう思ってしまうのも無理はなかった。
この合宿だって本当はキャンセルしようかと思ったくらいだ。
「私は情けないとは思わないです」
自嘲気味のセシルの両眼をしっかりと見つめてガウシアは力強く断言する。
「そうかな?」
「はい。自分よりも相手の方が優れている、ということを認識するのはとても難しいことです。だって、人はだれしも自分が一番かわいいんですもの。そんな中でセシル会長は自分よりも私達の方が優れているとちゃんと認識して悔しいという感情を抱いて心の中で葛藤しているんです。私はカッコいいと思います」
最後に私が言うのもなんですけどね、と可愛らしく笑いながら付け足すガウシアにセシルは心が救われた気分になる。
「……うん、ガウシアさんの言葉で少し元気が出てきた気がするよ。ありがとう」
「いえいえ、私は大したことはしてませんよ」
素直に感謝を告げるセシルにガウシアは照れ臭そうにそう返す。
そして幾度目かの学長たちが用意したであろうお化けポイントを通過した後、遠くの方から甲高い悲鳴が聞こえる。
「何?」
「……セシル会長、いつの間にか囲まれています」
ズラッと紫色のローブを着た得体のしれない者たちが二人を囲っていた。その中の一人がつかつかとこちらに向かって歩いてくる。
「お二人とも、ご同行願えますかな?」
「無理です」
手を差し伸べてくる者にガウシアは皮肉がたっぷり籠った笑みで断りを入れる。
「……小娘が生意気を」
その者がサッと腕を動かすと同時にセシルが動き出す。
「おっと、おとなしくしてもらおうか」
「キャア!」
しかし、いつの間にか目前まで近づいていた別の紫のローブの者にセシルは捕らえられてしまう。
「セシル会長!」
ガウシアもここまでの接近を気付けなかったことに驚愕する。かなりの使い手、それもガウシアよりも強い可能性が高い。
「おとなしくしないとこの女を殺すぞ?」
「……野蛮な人達ですね」
ガウシアは静かに両手をスッと上げる。ここで抵抗したところでどのみち捕まるだろうと思ったからだ。
「賢い判断だ」
「あなたに褒められてもうれしくありません」
両手を後ろ手に縛られると、ガウシアとセシルは無理やりどこかに向けて歩かされる。
「どこへ行くつもり?」
「着いてからのお楽しみだ」
良からぬ気配しか感じられない。ガウシアは気丈にふるまいながらも内心では焦りに焦っている。
誰か助けて、そう言葉にならない声が胸の内で反響するのであった。
♢
「この髪の毛は」
俺はあることに気が付き、その場に駆け寄る。緑色の髪の毛……こんな僻地に居る者の中で緑の髪の毛なのはガウシアしかいない。
そして、どこかへと続く大勢の足跡が見える。
こんなにわかりやすい痕跡を残すのは相手が素人だからなのかそれとも獲物をおびき寄せるためなのか。
「取り敢えずこっちに行けばガウシアたちが居るんだな」
俺は迷うことなくその足跡をたどっていく。
少し走ったところで黒いローブを着た者の姿を確認する。
「てめえか!」
「?」
俺が早々に殴りかかるとその黒いローブを羽織ったものは神の如き速さで俺の拳を受け止める。
受け止められた、だと?
この状態とはいえ破壊の力を使った俺の拳を無傷で止めやがった。こいつは只者ではない。
俺は警戒レベルをマックスにまで引き上げるが、黒いローブを着た者は顔を隠すようにフードをガシッと掴んで引き下げ、顔を隠す。
「私はお前の敵ではない」
そう言い残すとその黒いローブの男は音もなくその場から消え去る。
「へ?」
気を張っていただけに黒いローブの男が姿を消すと、変に気が抜ける。
いや、これはラッキーだな。
得体のしれない強敵を相手にしなくて済んだことを喜んで俺は再度足跡を追いかける。
「……さま、これは上質な能力強度がとれそうですね」
「ああ。間違いなく今までで一番だろう」
暫く進んでいるとそんな会話を俺の耳が捉える。
上質な能力強度ってなんだよ。ただの能力の強さを量る数値だろ。
俺は変なところに引っ掛かりを覚えながらもこいつらがガウシアとセシル会長を攫った犯人だと確信する。
そして、案の定、縄でつながれた二人の存在を確認する。
「ブレイク」
「クロノさん!」
「クロノ君!?」
二人が繋がれた縄を破壊し、二人を守るようにして立つ。
目の前には先程と同じ見た目をした怪しい集団。
「おやおや、これはまた大きなネズミがまんまと迷い込んできてくれましたね」
「司祭さま。やりましたね。これで優秀な学生の能力強度を3人分吸い取ることができます」
また変なことを言っている。そもそも能力強度を吸うってどういう概念なんだ?
そんなことはどうでもいいか。俺は目の前にいる一番強そうなものに声をかける。
「お前達はいったい何者だ?」
俺の問いかけにそいつは嬉しそうににんまりと笑みをたたえると、こう発する。
「私達は魔神教団。魔神様を封印から解き放つ者です」
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