第30話 勇者vs主人と付き人
辺りに生徒たちのうめき声が聞こえる。皆、カリンにある程度動けないぐらいのダメージを負わされ、座り込んでいるのだ。
そして、残っているのはリア様と俺だけ。
この状況は非常に不味い。
本来ならばこの実習は多人数対1であるため、最初の方にやられてしまえば、俺の姿はバレることは無く、モブ1として認識されなくなるはずだったのだ。
しかし、最後まで残ってしまったというのはつまり一番顔が覚えられやすいということ。仮面を被っているとはいえ安心できない。
別にバレたらどうなる、という明確な理由で避けているわけではないのだが、どこか心の中でトラウマを抱えており、漠然とそれでいて強くバレたくないと思うのだ。
「来ないのならこちらから行きますよ」
シュンとその場から姿を消すと、カリンはリア様の目の前に移動する。
「えっ……」
「まずは一人目」
カリンがリア様に攻撃を仕掛けようとしたその時、バレないようにどうすればと必死に考えていたことを忘れ、俺の体は自然とリア様を守るように動いていた。
パシッとリア様に伸びている手を払う。
「……へえ、結構強いんですね、あなた。おかしな仮面をつけていたのでノーマークでした」
やっちまった。いやしかし、この場合は仕方が無いことだ。ご主人様がやられそうになってたんだから。
眼前にカリンの顔がある。遠くから見ているだけなら大丈夫だったものがいざ目の前に来ることで俺の中に眠っているトラウマを呼び起こす。
『金輪際私と関わらないで、ですって』
「くっ」
カリンの顔を見た瞬間、頭に鈍痛が走る。
「敵の前で隙を見せるのはあまり良くないと思いますよ?」
気付けば俺の視界はグワンッと揺れ動き、地に臥せっていた。
♢
「カリン先生、強かったわね」
「はい、とても同い年とは思えませんでした」
実習授業が終わり、昼休憩の時間。いつもの4人で学食で食事をしながら、カリンのことを話す。
「まさか、副会長を圧倒したクロノですら歯が立たないなんて思わなかったわ」
「歯が立たなかったんじゃない。クロノは油断してた」
「いや、俺は油断なんてしていないぞ?」
「なら一度そのふざけた仮面を外したらどう?」
「それは無理な話だ。これが無ければ精神が安定しない」
これは本当の話だ。素顔を晒したまま、カリンと同じ学校に通うのは精神的に不安定になるからだ。
最初、カリンの姿を見た時、思ったよりトラウマなんて無かったんだと思っていたら、あの近距離で見たらやっぱり思い出してしまった。
終わった話だと俺の中で思ってはいてもいざ目の前にしたら違うんだなと改めて思った。
そうして楽しく4人でわいわいと食事を進めていると、横にトンと食器の乗ったトレイが置かれる。
「お隣、よろしいでしょうか?」
そう言って姿を現したのは、あのカリンであった。
「か、カリン先生! ど、どうぞこちらへ」
元々、俺達は6人掛けのテーブル席に座っていたため、詰めれば普通に座れる。
俺の横はリア様で、その横にカリンが座る。よかった、対面じゃなくて。
「あら? あなたはお食事中でもその仮面を外さないのですね」
「そうなんですよ~クロノったら最近いきなりこの仮面をつけ始めまして。取ってと言っても全然取ってくれないんです」
「最近? 今までは着けていなかったんですか?」
「はい。昨日までは普通に素顔を出して登校してましたよ」
リア様がそう言うと、カリンがふ~んと言って俺の顔を眺める。
俺は内心でドキドキしながらその時が過ぎるのを待つ。
これは考慮していなかった。まさか向こうから接触してくるなんて。
それに今日から仮面をつけだしたなんて明らかに怪しいじゃねえか。
「まるで私に顔を見られたくないみたいですね」
ギクゥッ!?
「ははは、それは無いんじゃないですか? 多分、クロノの中の流行りみたいなものですよ」
「うん、そう。クロノは前から変なところがある」
「私は詳しくは知らないですけど二人が仰るのならそうですね」
こうしていつものメンバーにカリンを含めた5人の食事会が進んでいく。
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