第29話 圧倒的な力の差
実習場ではずらっと一人の少女を20人が取り囲む不可思議な情景が見られる。
囲まれている黒髪の少女、カリンは余裕綽綽の表情でこう告げる。
「一気に来てもらっても構わないですよ?」
その言葉に数人が示し合わせたかのように一気にカリンに飛び掛かる。
しかし、その者達は次の瞬間にはカリンに届くことなく吹き飛ばされていた。
「ほら、残りの方も早く」
その圧倒的な力を見せつけられたSクラスの生徒たちは次から次へと飛び掛かっていく。そしてその尽くがカリンによって叩きのめされている。
「つ、強い」
気が付けば、残っているのはリア様、俺、ガウシア、ライカ、クリス、ジオンの6名だけであった。
「どうしたのでしょうか? あなた方も早くかかってきては?」
「ふふ、腹を決めるか。ジオン!」
「はい!」
ジオンとクリスがカリンに突っ込んでいく。
「へえ」
クリスとジオンは実習でいつも一緒にやっているからか、連携を取ってカリンから放たれる神速の攻撃を避け続ける。
「貴方達は、中々に腕がたつようですね」
「「でやああああ!」」
二人が能力をカリンに向けて放とうとしたその瞬間、カリンの目が怪しく光る。
「ですが、甘いです。背後はちゃんと注意しておかないと」
「い、いつの間に後ろに!?」
「さっきまであそこに居たはずなのに!」
誰にも見えない速さで二人の後ろに移動すると、カリンはそのまま攻撃を放ち、二人はやられてしまう。
Sクラスという類稀なる能力を持つ者達をここまでカリンは能力をほとんど使わずに圧倒してみせた。
残るは4人。
「次、私がやる」
にいっと口角を上げるとライカが一歩前に出る。
バチバチと体の周りを高電圧の雷が纏われていく。
「私もやります」
すうっとガウシアも前に出る。
「あら? そこのあなたが確かSランク冒険者でしたね。そして、そちらが『五つの光』のうちの一つであるゼルン王国の王女殿下ですか。これは私も少し気を引き締めないといけないですね」
そう言うと、カリンの体に今まで纏われたことの無かった赤紫のオーラが纏われていく。
カリンの能力、『勇者』独特の身体強化のオーラである。
「さあ、来てください!」
神速の如き速さで詰め寄るライカ。それを補佐するように後ろでガウシアが控えている。
バチンッ!
一瞬光ったかと思った時には既にライカはカリンの目の前に居た。
「おっと、流石は雷姫ですね」
カリンはそう言うと、サッとその場から離れようとするが、足に何かが絡みついていて動けない。
「なるほど、ここでエルフ王家が使う能力、『大樹』の出番なわけですか。これは一本取られました」
ガウシアによって生み出された木が太い蔓のようにカリンの足に纏わりついてしまい、身動きが取れなくなってしまう。
そして叩き込まれるは電気によって超加速された超電圧の雷を纏った拳。
ドガンッ!!!!!
ライカの攻撃のあまりの激しさに実習場の床が砕け散る。
流石のカリンもこうなってはおしまいだろう。誰もがそう思っていたが、現実はそう甘くない。
「良い連携です。私がまさか攻撃される側になるとは思いもしなかった」
そこにはライカの拳を片手で軽々と受け止めているカリンの姿があった。
「次は私の番ですね」
カリンはそう言うと、掴んでいるライカをガウシアに向かって放り投げる。
余りの速さにガウシアも避けきることができずに衝突し、二人仲良く飛ばされていく。
「だから全員まとめてかかってきてくださいと言いましたのに」
残っているのはリア様と俺だけだ。
「クロノ……やれる?」
「難しいですね」
おいおい、こんなところまで残るつもりなかったのに。これじゃ、バレてしまうかもしれないじゃないか!
俺はリア様とはまた別の所で葛藤していた。
目の前の正真正銘の勇者の姿を見て思う。
どうしようか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます