第28話 再会
「皆様、初めまして。私の名前はカリン・イシュタルと申します。一応同い年なのですが、本日より一週間臨時講師を務めさせていただくことになりました。なので気軽にカリン先生とお呼びください。この一週間どうぞよろしくお願いいたします」
長い黒髪の少女がメルディン王立学園1年Sクラスの教室の黒板の前でお辞儀をすると、クラス中が色めきだす。
「おいおい、ガチで竜印の世代じゃねえかよ」
「それも竜印の世代で一番強いあのカリン様が来るなんて」
カリンは俺の幼馴染であり、世界で2番目に能力強度が高いということで、竜印の世代の中でも特に顔が知られている。
最初、能力強度を測った時は圧倒的とはいえ、二桁の順位だったのにここ4年間、魔神族と戦っただけで2位まで浮上した正真正銘の化け物である。
よかった、丁度仮面を買っておいて。嫌な予感がしたため、念には念をと持ってきておいたのである。
「凄いわね、クロノ……ってなんでその仮面をつけているのよ」
「お気になさらず。リア様に買っていただいて着けたくなったのです」
目元だけを隠す黒い仮面、仮面というよりかはレンズの無い眼鏡のようなそれを付けながら俺は内心バクバクである。
まあ、4年も前だし、俺の顔も変わっているプラスでこの仮面をつけていれば俺がクロノ・エルザードだということはバレないだろうが怖いものは怖い。
俺がエルザード家にまだ居た時、俺の小さな変化に直ぐに気付くほど鋭い奴だからだ。
「それじゃあ、早速実習場へ向かう。今日から臨時講師であるカリン先生が相手になってくれるからこの機会を存分に使うんだ」
「先生」
「なんだ、クリス?」
「カリン先生と実習をするにあたって疑問があるのですが、カリン先生と実習している生徒以外の者はその間何をしていればよいのでしょうか?いつも通りペアで実習すれば良いですか?」
「それはだな……」
「少しお待ちを。私が答えます」
ギーヴァ先生がクリスの質問に答えようとした時、カリンが言葉を遮る。
「私は皆さんを一気に相手します。なので暇な生徒はいないかと思いますよ?」
カリンの言葉に生徒たちは驚く。カリンの後ろに控えているギーヴァ先生ですら聞いていなかったようだ。
「ちょちょちょっと、カリン先生。それは大丈夫なのですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。私ならば一人で」
自信満々に言い放つカリン。
皆が驚き、闘争心を燃やす中で俺は一人ホッと胸を撫で下ろした。
良かった。一人一人ならば鋭いカリンが気付く恐れがあるが、多人数ならばバレる心配をする必要は無い。
不幸中の幸いといったところだろうか。残るはクロノという本名で学籍登録しているところだが、クロノなんてありふれ、てはないが、名前が一緒というだけでまさか正体を当てられるわけが無い。
「クロノ、本気でそのまま授業を受けるつもり?」
「はい。この仮面が気に入りましたのでざっと一週間は着けていようかと思います」
「まあ、良いけど」
「クロノ、変」
「変ですね」
何と言われようと、俺はこの仮面をつけるんだ。確かにこの仮面をつけていれば目立ちはするかもしれないが、それよりも素顔のままでカリンの前に立つ方がよっぽどバレてしまう。
「じゃあ、実習場に向かうぞ!」
ぞろぞろと生徒たちが教室から出ていく。勿論、既に実習用の服に着替えている。
「楽しみね! 噂の能力を見ることができるのかしら?」
「彼女こそが真の勇者と言われた例の能力ですよね」
「楽しみ」
どうやら三人ともカリンとの実習授業を楽しみにしているようだ。
そんな3人の様子を見ながら俺は憂鬱な気持ちを抱え、実習場へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます